勇者外伝3「召喚です」③




「えっとですね! ご説明させてください!」

「ぜひお願いしますぞ」


 なんとも言えない空気になってしまったので、話を進めようとするクリスティーナに龍太郎も同意する。

 むしろ、ここからが重要だ。

 この世界で生き残るためにも、自分の力を把握しなければならない。


「まず、魔法関連ですが、月白様に苦手な属性が――いえ、すべての属性魔法に特化しています!」

「なんとチートな」

「月白様は魔力量も桁外れですので、こちらが組み合わさればものすごい力を手にすることができるでしょう!」


 目を輝かす、クリスティーナだが、龍太郎は内心「勇者というか、魔法使いですなぁ」という感想を抱く。

 それにしても、全属性に特化しているのはいいことだと思うが、龍太郎的にはひとつの属性を突き詰めたかった。


「そして、スキルですが、まず『剣聖』です。こちらは月白様に剣の才能をお与えくださるのでしょう。いえ、一流以上の剣の実力がすでに備わっていると思われます」

「それはなんと」


 学校の授業で剣道くらいしか経験したことのない龍太郎にとって、自分に剣の才能があるのかいまいち不安だ。

 しかし、剣の聖とつくスキルが備わっていると言うことは、そういうことなのだろうと思う。


「月白様、わたくしとしては『学習』スキルを持っていらっしゃることが、月白様にとってとても利になると考えています」

「と、いいますと?」

「学習というスキルは、学ぶことに特化したスキルです。学ぶことはなんでもいいのです。月白様が学びたいと思ったことを勉強、もしくは訓練することで普通では考えられない速度で習得するでしょう」

「ほう!」

「さらに、それは敵と戦っている間も同じです。相手の行動を、攻撃をすべて学習し、技を奪うことも、敵を知ることで攻略することも可能となるのです。使いこなすことができれば、無敵のスキルとなるでしょう!」

「至れり尽せりですなぁ」


 興奮気味のクリスティーナに対し、龍太郎は冷静に考えていた。

 学習することによって強くなれるというのなら、自分を召喚した魔法を学習することで、もしかしたら地球に戻ることができるのではないか、と。

 この世界の苦しむ人たちを見捨てるつもりはないが、やはり生き残ることができたら帰りたいのだ。

 しかし、この考えを口にしないほうがいいだろうと思う。

 クリスティーナは少し接しただけでもいい子だとわかる。

 本当に国と民を憂いた結果、自分を召喚したのだ。

 自分に罵倒される覚悟も、奴隷として従順になる覚悟も持った上で、勇者召喚をした彼女の力になってあげたいと思うのは自然のことだった。


(自分も男の子なので異世界に興味がないと言えば嘘になりますし、魔法も使ってみたいですな。ここはひとつ、なにかの縁だと思い、戦いましょう!)


 そこまで思考して、ふと気づく。

 今は何時であるのかということだ。

 建物の中を移動してきたものの、窓はなく、この部屋も小さな灯を複数個置くことで明るさを保っている。

 わざとなのか、それとも防御のためなのか、今の龍太郎には判断できなかった。


「そ、そしてですね、あの、最後のスキルですが」

「あー、さすがに女性の口からは言いづらいでしょうな。だいたい察しておりますので、お気になさらずに」

「いいえ! そうはいきません! わたくしにも『絶倫』がどのようなものか理解できていますが、実際に試してみないとはっきりしません!」

「はい?」


 なにを言っているのだ、と龍太郎は首を傾げた。


「……試すとは?」

「そのままの意味です! 絶倫であるかどうかわたくしでお試しください!」

「お断りします」

「……なぜですか?」

「自分にはその、好きな方がいるのです」


 偶然が生んだ出会いであり、高校生の自分が子供もいる女性になにをと思われるかもしれない。

 だが、龍太郎は本気だったし、家族も応援してくれていた。

 そして、彼女もまた龍太郎の気持ちに応えつつあったのだ。


 いくら日本に帰れる可能性が少ないからとはいえ、召喚されたその日に誰かと関係を持つなどありえない。


「先ほど仰っていった、かおり様という方ですね」

「はい」

「しかし、故郷には戻れません。もちろん、わたくしのせいですし、償いも致します。そのひとつとして、どうぞ、わたくしを自由にしてください」


 魅力的な異世界の美少女、それも王女と聖女という肩書を持つクリスティーナにそんなことを言われてしまい、ぐらり、ときた。

 しかし、ここで流されてしまうのもどうかと思い、必死に耐える。


「わたくしは、月白様が召喚された瞬間から、忠実な僕であり、奴隷です」

「いや、ですから」

「もし、月白様からわたくしに手を出すことに負い目があるのであれば、わたくしのほうからご奉仕させていただきます」


 そっと、近寄り龍太郎の身体を撫で始めるクリスティーナに、抵抗しようとするも、蠱惑的に潤む彼女の瞳を前に、力が入らない。


「生娘ですが、殿方にお喜びしていただく王家に伝わるテクニックを母より伝授されております」


 絶倫、という単語を口にするだけでも恥ずかしがっていたクリスティーナの代わりように、まるで別人ではないかと思いたくなった。


「身体も心でも、月白様にお尽くし致します。どうぞ、楽しんで下さいませ」


 頑張って抵抗しようとした龍太郎だったが、やはり好奇心旺盛な高校生。美少女の誘惑に最後まで抗うことができなかった。




 ――異世界に召喚されて三時間。月白龍太郎は童貞を卒業した。

 なお、スキル絶倫は本当に絶倫だった。





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