46「侯爵とお話しです」②
「そうかしこまらなくても構わないよ。僕と君は親族だ。ジャスパーと兄のように読んでもらって構わない」
「えっと、ではジャスパー様」
「……今はそれでいいよ。いずれはギュンターのように呼び捨てにされたいがね」
「努力します」
サムとジャスパーは給仕から飲み物をもらうと、近くにあった椅子に座った。
「さて、いざこうして話をしようとすると緊張するね。親族といっても、僕は君の存在をずっと知らなかったわけだし、君もまさか王家の血を引いているなど夢にも思っていなかっただろうしね」
「あははは、おっしゃる通りです」
「人の縁とは不思議なものだ。あのウルリーケが弟子として育て、愛した君が、親戚だったとはね」
「あの、ウルとは?」
ウルの交友関係全てを把握しているわけではない。
ジャスパーとウルが友人であると聞いているが、それ以上のことはあまり知らなかった。
「ギュンターとは幼少期から付き合いがあるが、ウルリーケとは十六の時にね。僕が見合いが嫌で家出したところを彼女に捕まったのさ」
「それは、なんというか、すごい出会いですね」
「まったくだ。今でも忘れられない。その後、なにかと付き合いがあってね。彼女が国を出るまで、ギュンターと揃って遊んだものさ」
懐かしそうに語るジャスパーから、ウルへの親愛を感じ取れた。
「先日、亡くなったはずの彼女が急に現れてね。化けて出たのかと思って失神してしまったんだが、容赦無く叩き起こされて、本物だと悟ったよ」
「ウルらしいです」
「彼女は私の妻と子を見てから、君を頼むと、言って去っていった。風のように自由なところは相変わらずだ」
その後、ジャスパーはサムの結婚式に参加し、再びウルと会ったそうだ。
「君には感謝している。あの退屈そうだった彼女の生き生きとした笑顔を初めて見た気がする」
「俺の方がウルには世話になってばかりでした」
「……すまない、つい湿っぽい話をしてしまったね。さて、本題だ」
「はい」
「陛下から聞いていると思うが、私の妹と君を結婚させたい」
単刀直入にはっきりと言い放つジャスパーからは、なにかを企んでいるという雰囲気はなかった。
「君にリーゼたちがいるのは知っている。その仲を邪魔するつもりもないが、僕の妹を君の家族の末席に加えてもらえると嬉しいよ」
「なぜ、と聞いてもよろしいでしょうか?」
「そうだね。まず、単純な話として将来有望、いや、現時点でこの国にとって重要不可欠な君とつながりを持ちたい。親族だから、では少し足りないと思うんだ」
「はっきりいいますねぇ」
「言うとも。君は裏でこそこそするのを好まないと聞いているからね」
実際、ジャスパーのような人物は好ましい。
ただ、サムとしては、貴族らしい結婚というのはあまり歓迎していなかった。
リーゼたちとだって、出会いはそれぞれだが、ちゃんと好きで結婚したのだ。
彼の妹がどのような人かわからないし、そもそも結婚を望んでいるかも不明だ。
リーゼたちとの関係だって、どのようになるのかわからないことが不安でもある。
「――待ちたまえ!」
サムがジャスパーにどう返事をしようかと悩んでいると、今、一番聞きたくない声が聞こえた。
「サムと縁を結びたいというのなら、第一婦人の僕にまず話を通してもらおうか!」
視線を向けると、やはり「奴」はそこにいた。
水色のドレスを上品に着こなしたブロンドの美女。
ギュンター・イグナーツ改め、ギュン子・イグナーツだった。
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