41「その頃、ゾーイさんは」①




「――嘘、だろ」


 ゾーイ・ストックウェルは、目の前に広がる光景を受け入れることができずに、ただ茫然とするだけだった。

 魔王レプシーに眷属してもらい、魔王ヴィヴィアンに仕える騎士でありながら、自分のことを情けなく思う。

 しかし、どうしても、受け入れることができなかった。


「お初にお目にかかります。夫がとても世話になったと聞いています。私は、レオノール・ジョンストンと申します。ドミニク・キャサリン・ジョンストン宮廷魔法少女の妻であり、第三騎士団副団長を務める身でもあります」

「はじめまして。わたくしはフェリシー・ジョンストンと申しますわ」

「私は、イヴェット・ジョンストンです。お会いできて嬉しいです!」

「僕は、ジーラ・ジョンストンだ。母と同じ第三騎士団に所属する騎士だ。歓迎しよう」


 四人の美女が並ぶ背後で、屈強な筋骨隆々のおっさん魔法少女が笑顔を光らせた。


「この子たちが、お姉さんの大切な家族よぉ」


 妻を名乗ったレオノールは、同性のゾーイでもうっとりしてしまう美女だった。

 三十代半ばほどの外見だが、もっと若々しい雰囲気がある。

 男装に身を包む身体は背が高く、グラマラスだ。

 紫色の髪を伸ばし、凛と背筋を伸ばす姿はまさに騎士と納得できる佇まいだった。

 ゾーイは男装の麗人でありながら肉体的にも魅力的なレオノールをじっくり見つめてから、自らの胸や尻に手を当ててみた。


(――悲しい)


 続いて、二十代前半の美女、二十歳ほどの美女、最後に十代半ばほどの美少女だ。

 全員が太陽を反射する美しいブロンドヘアーだ。

 フェリシーは物腰が柔らかな雰囲気を持ち、華やかなドレスを着こなすスタイルのよい美人だった。

 イヴェットは快活さを感じる美女であり、黒いワンピースに身を包み、一見するとすらりとしているが、それでも出ているところは出ている。

 ジーラは、襟足を刈り上げたショートカットで、背丈も小柄なボーイッシュな美少女だった。彼女だけ凹凸のない肉体で、ちょっとだけゾーイがほっとした。

 キャサリンが家族という四人は、なんというか、見目麗しかったのだ。


「妻も娘たちも、素敵でしょう?」


 家族の肩を抱く、キャサリンの言葉が信じられず、なんと反応すべきかと悩み、ゾーイはひとつの結論に至った。



「――なるほど、血が繋がっていないのか」



 酷く失礼な言葉に、ジョンストン家の女性たちが笑う。

 しかし、キャサリンだけが不満顔だ。


「やあねぇ、よく似ているじゃないの」

「――どこがだ!」


 ほぼ反射でゾーイが叫んだ。

 そして、キャサリンの家におよばれしたことをとても後悔した。


(劇場に残っていればよかった!)


 サムが報告があると王宮に行ってしまったので、手持ち無沙汰になってしまったゾーイ とボーウッド。

 水樹が妹に、ヴィヴィアンからもらった指輪を届けに行くので一緒にどうか、と誘ってくれたのだが、家族の輪に加わるほど無粋ではないので遠慮させてもらった。

 きっと今頃、家族で喜んでいるだろう。


 ボーウッドは、サムの妻のひとりであり妊婦のリーゼの護衛をすると鼻息を荒くして、忠犬よろしく付き従うようだ。

 きっとそのうち「ワン」と鳴くだろうと思う。


 残されたゾーイを、変態が「君も女優にならないか?」と誘ってきたが見せ物になるのはごめんなので断ると、舞台女優のオーディションに見事合格したキャサリンが「じゃあ、お姉さんの家にご招待するわ」と誘ってきた。

 最初こそ、嫌そうな顔をしたゾーイだったが、キャサリンの家族が美女だと水樹から聞いていたこともあり、好奇心に負けてしまいおよばれしてしまったのだ。


 内心、さぞ恐ろしい女性たちが現れるのだろうと、ちょっと怯えていたのだが、実際は見目麗しい女性たちが出迎えてくれた。

 きっと、キャサリンそっくりな娘たちに出迎えられていたら、泣いて逃げ出していただろう。

 吸血鬼だろうと、準魔王級などと言われようと、怖いものは怖いのだ。

 ゾーイは、驚きはしたものの、いい意味で期待を裏切られたことに、内心ほっとした。




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