11「修行をしてくれるそうです」




「えーっと、せっかくのお誘いですがお断りします」

「残念ですが、君はそういうと思っていました」


 残念と言いながら、あまり残念そうな顔をしていない友也が、サムから手を離す。


「俺は魔王って器じゃないと思うんですよ。それに、魔王を名乗れるほど図々しくもないんです。今だって、あなたと向き合っていながら、どうやって戦っていいのかだってわからないのに」


 先程の話ではないが、自分には魔王の器がないと思う。

 魅力というべきか、ついていきたいと思わせるような大きなものがない。

 友也もラッキースケベ以外にも千年培ってきたなにかがあると感じるし、底知れなさはまさに魔王に相応しく思う。

 それこそ、ダグラスのような兄貴と呼び慕いたくなるような気持ちや、エヴァンジェリンのような自由さ、そしてヴィヴィアンのような懐の深さなど、サムにはないものばかりだ。

 そして、なによりも彼らに届く強さがサムにはない。


「言っておきますが、僕は魔王の中でも強いですよ。それこそ、ボーウッドくんが圧倒的な力で敗北した魔王ロボも僕なら勝てます。もちろん、ラッキースケベ抜きで。まあ、発動しちゃうんでしょうけど」


 それに、と友也は続けた。


「器や魅力というのは置いておきましょう。魔王になるのに必須ではないのですから。必要なのは単純な話――強さです。そして、君にはそれだけの力があります」

「俺の魔力が魔王級だと言われましたし、今もあなたがそう言ってくれますが、俺にはその辺もよくわからないんです」


 レプシーのときには無我夢中だった。

 魔王を倒したことで魔王級だというのなら、そうなのかもしれない。

 しかし、出会った魔王たちに匹敵する力が果たしてあるのか、と疑問だった。


「うーん。君の今後の課題はもっと自分の力を知ることですね。力の使い方の話にも繋がりますが、まずはそこから始めましょう。力を自在に使いこなせるようになれば、自身の内側に眠る力にも気付けるでしょう。そうすれば、君はもっと強くなる。僕が保証します」

「俺は、強くなれるんですか?」

「ええ、なれますとも。それこそ、――最強の魔王に」


 ぞくり、とした。

 最強を目指すと豪語したが、魔族と魔王に出会い井の中の蛙であったことを知った。

 そんな自分に、まだ強くなれると魔王が言ってくれたのだ。

 喜びを隠せない。

 もっと高みに登れるのだ、と心臓が昂る。


「と、いう訳で――修行しましょう」

「へ?」

「今後、最低でも爵位持ちの魔族と戦うんですから、根本的な自力を上げましょう」

「あの、どうやって?」

「はははは、ご心配なく。古今東西、修行なんて強い相手と戦っていれば勝手に強くなるもんです」

「はい、きたー! 急に脳筋思考! ウルもそうだったけど、どうしてみんなこう力づくでくるかなぁ!」


 当たり前だと言わんばかりに友也が口にした修行内容は、かつてウルとの修行時代を思い出させるものだった。

 当時は、ウルが全力で叩き潰してくれたので、否応なく強くなったのだが、まさかこの超理論が魔王から提示されるとは思わなかった。


「いやいや、実際こんなもんですって。こつこつやってもいいですけど、ほら、人間には老いも寿命もありますから、のんびりしていられないんですよね」

「……のんびりしたらそんなに時間がかかるんですか?」

「さあ、こつこつやったことがないので。あと、君は若いので柔軟性があるんですよ。歳を重ねると、どうしても癖とか強くなるので」


 結局のところ、わかりやすい方法での修行が結果も出やすいようだ。


「わかりました。力になってくれるのなら、ありがたいです。お願いします」

「ええ、こちらこそ。さて、戦う相手ですが――僕でもいいんですが、君を殺してしまってもあれなので、爵位持ちの魔族を用意しておきますよ。ゾーイでもいいですが……あの子はもう君の情を抱いているようなので、殺すつもりで戦うことはできないでしょう。君もそうでしょう?」

「……すみません」


 力量差はさておき、よき友人のような関係となっているゾーイにサムはスキルを使って戦いたくなかった。

 たとえ回復できるとはいえ、抵抗はある。

 彼女を戦士として軽んじているのではなく、サムは自身の力を家族や友人に振るうつもりはないのだ。


「いいですよ。君とゾーイは似ています。甘いところが、その甘さが優しさなところも。君たちはそれでいいんです。それが強さでもあるんですから。遅れを取ろうと、失敗しようと、最後に立っていればいいんです。まあ、助言としてはご家族に心配かけるのはほどほどに」


 それに、と友也は続けた。


「魔王レプシーの配下の中でも彼女はとっておきです。そんな彼女を修行中に切り殺されたら大変だ」

「それは、どういう意味ですか?」

「そのあたりは追々ゾーイから聞くこともあるでしょう」


 意味深な言葉を残すと、さて、と友也が立ち上がった。


「もっと君と語り合いたいんですが、そろそろ時間ですね。楽しい時間はあっと言う間に過ぎていく。そうだ、霧島薫子さんにもよろしく言っておいてください」

「……彼女もあなたの同じく召喚者なのに、会わなくていいんですか?」

「いきなり現れて、魔王だなんだと言ったり、ラッキースケベをかまして警戒されないのであれば、僕も出向くのですが。無理でしょう」

「ですよねー」


 サムと友也は、友人のように声を上げて楽しそうに笑い合った。




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