55「魔王からの提案です」①
「……はじめまして、魔王様」
声だけで、自分たちはもちろん、エルフの女王候補だったダフネまで押さえ込んでみせた魔王に緊張気味に挨拶をする。
万が一、彼を不快にさせてしまったら、サムたちでは勝てないと本能でわかっていた。
「僕は遠藤友也です。まあ、図々しく魔王をやらせてもらっているんですが、姿を現せずに申し訳ない。僕はあまり人前に出られないんです」
思いの外、魔王遠藤友也は気さくな言葉遣いでサムに応じる。
その声に敵意がないと察したサムはこちらを伺っている水樹に目配せをする。
水樹は、サムの言いたいことがわかったようで、ダフネに駆け寄ってくれた。
「いえ、お気になさらずに」
「ありがとう。さて、さっそくですが、無礼を承知で君にお願いがあります」
「魔王を名乗る魔族と戦え、と?」
「うん。僕は君の力が見たいんです。不躾で申し訳ないし、僕に誠意が欠けていることを承知で、お願いしたい」
「なぜですか?」
「レプシーを倒した君の実力が見たい、それだけです」
なるほど、とサムは納得した。
ゾーイがそうであるように、魔王遠藤友也もサムがレプシーを倒すだけの力があるのか懐疑的のようだ。
実際は倒せているのだが、彼らから見て、サムのどこに全盛期ではなかったとはいえレプシーを倒すことのできた実力があるのかわからないのだろう。
(――俺自身、レプシーを倒せるほど力を出せたのが疑問だが、魔王達が懐疑的なのも理解できる)
「友也、おやめなさい」
サムは返事をする前に、ヴィヴィアンが友也を窘めた。
だが、彼はそのくらいでは諦めようとはしない。
「サム殿はお客様なの。いくらボーウッドが魔王を名乗ったからって、その後始末をサム殿にさせるのは違うでしょう?」
「もちろん、承知しています。僕のお願いが理不尽なことも、誠意がないことも、理解しています。その上で、彼の力が見たいんです」
友也のサムへの興味は尽きないようだ。
サムは、どう対応すべきか迷う。
人様の国で、魔族と、それも魔王を名乗っている反乱分子と戦っていいものなのか。
いや、それ以前として、サムが戦って勝てる相手なのかという疑問もある。
(相手が強いからと言って戦わない理由にはならないけど。さて、困ったな)
「ヴィヴィアンも彼の力を知りたくないですか?」
「…………」
ヴィヴィアンは友也の問いかけに沈黙で返した。
つまり、彼女もサムの力に興味があるということだ。
「サミュエル・シャイトくん、気を悪くしないでほしいんですが、今の君からはたとえ弱体化していたとしてもレプシーを殺せる強さを感じない」
「それは、レプシーが死にたがっていたから」
「ごめん。そうじゃないんだよ。死にたいなら殺してあげたかったのは僕も同じです。だけど、レプシーを殺しきることのできる力は僕にはなかった。そこにいるダフネも、ゾーイも、そしてヴィヴィアンも持ち合わせていない」
サムは思わずヴィヴィアンに視線を向けた。
彼女は、友也の言葉を肯定するように頷いた。
(まさか、レプシーを眷属にしたヴィヴィアンが彼を殺せなかったのか?)
「わかりますか? レプシーは強いだけじゃなくて、生命力も凄まじい存在だったんです。そんな彼を、いくら弱体化しているからといって、十五年も生きていない人間の君が殺せたのなら、友人である僕がとっくに殺していました」
友也の言葉から伝わるのは、彼自身がレプシーを楽にしてあげたかったという感情だ。
その想いがあるからこそ、サムの力にも興味を示すのだろう。
(――うん。決めた)
「いいでしょう」
「ぼっちゃま!」
「おい、サム!」
「サムってば、なにを!?」
ダフネが、ゾーイが、水樹がサムに驚きの声を上げた。
「構いません。正直、ちょっと調子に乗っていたと思うんですよ。同じ人間相手にちょっと強くなったからって、最強を目指すとか簡単に言っちゃって。もちろん、その目標を取り下げるつもりはありませんけど、広い世界を知りたい。ならば、これはいいチャンスだ」
部屋の中に拍手が木霊する。
室内にいる人たちではなく、どこからか響く友也のものだった。
「――素晴らしい心意気です。ならば、僕も君に最大の誠意を見せたいです。君がもし、ボーウッドを見事に倒してくれたのならば」
「ならば?」
「他の魔王たちはさておき、少なくとも僕は君をレプシーの後継者として、彼を継ぐ新たな魔王として認めましょう!」
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