46「企んでいるそうです」
「――魔王レプシーが殺されたというのは本当か?」
大陸西側に広がる深い森の中に開けた町があった。
その町を納めるのは、人間には獣人と呼ばれる種族の獅子族が納めていた。
魔王レプシーの死に触れたのは、町の代表者である獅子族のボーウッドだ。
町の中で一番大きな屋敷の一室にある、会議室で、同じく獅子族の獣人たちとテーブルを並べる彼は、獅子というだけあり、黄金の毛並みに包まれ、立派な立髪を蓄えている。
獣の獅子と違うのは、人型であるということ。
「間違いないです。向こう側の情報屋が手に入れたそうです。なんでも、人間がレプシーを殺したとか」
「人間があのレプシーを殺しただと!?」
ボーウッドは信じられないとばかりに吠えた。
無理もない。
魔王レプシーといえば、最古の吸血鬼である魔王ヴィヴィアンに次ぐ力を持つ魔王であり、単純な戦闘能力ならば、魔王の中でも随一と謳われているほどだった。
さらにいえば、人格者であり、種族問わず、それこそ人間でさえ受け入れてしまうため、魔族の一部からは変わり者の魔王だと言われていた存在でもある。
そんなレプシーが人間の妻子を人間に奪われ、暴走したのはボーウッドたちも覚えている。
人間に倒され封印されたと聞いていたが、まさか現代になって殺されてしまうなど考えもしなかった。
「――憶測ですが、巷で噂されるほど強くなかったのではありませぬか? 魔王ともあろう方が、脆弱な人間に負けるとは……正直、理解できませぬ」
「貴様の言うことも一理あるな。吸血鬼など、所詮は、血を吸うだけしか脳のない連中だ。我ら誇り高き獣人たちとは違うのだ!」
「ボーウッド様、聞けば、魔王ヴィヴィアンがレプシーを倒した人間を招くそうです」
側近の言葉に、ボーウッドが理解できぬとばかりに顔をしかめる。
「わからぬ。眷属であったはずのレプシーを殺されておきながら、なぜその者をヴィヴィアンが招くのだ?」
「わかりかねます」
「呼び出して殺す――というのは、あの女の性格上ありえぬか」
「真偽はわかりかねますが――」
「構わぬ、話せ」
ボーウッドに促されて、椅子に座らず直立不動していた部下が恭しく礼をしてから口を開く。
「知り合いから聞いたのですが、魔王ヴィヴィアン様は、魔王レプシー様を下した人間と友好関係を築こうとしているそうです」
「――なんだと!?」
ポーウッドは、驚き以上に怒りが湧き上がり、感情に任せて机を拳で砕いた。
机の上に置かれていたワイングラスが机と一緒に床に落ち、音を立てて割れてしまう。
部下たちは、ボーウッドに怯え、距離を取る。
「誇り高い我々魔族が、人間に敗れただけでも情けないと言うのに、友好関係を築くためにわざわざ呼んだだと!?」
「そ、そのようです」
「――魔王たちも老いたな」
ボーウッドは怒りの表情を消し、牙を向いて笑った。
「これは好機だ!」
「ボーウッド様?」
「もう今の魔王は駄目だ! 人間を妻に迎えた愚かな魔王に、眷属を殺されておきながら復讐しない腰抜け! 呪われた竜に、壊すことしかできぬオーガ、そして、人間の魔王がふたりもいる! これが、我らを代表する魔王だと!? もう我慢ならぬ! なによりも、獣の王たる魔王が、我ら獅子族ではなく、人狼族だということも気に入らぬ!」
かつてボーウッドは、魔王を目指していた。
だが、獣の王ロボという人狼族の魔王を前に、その野望は朽ち果てた。
しかし、今ならチャンスがある。
「レプシーを殺した人間の首を取ってやろうぞ! そして、俺が魔王にふさわしいと、魔王として君臨すべきだと知らしめるぞ!」
「おお! 立ち上がるのですね!」
「この好機をものにするのだ! 各地に散らばる同士を集めよ! 今こそ、世代交代だ!」
ボーウッドの宣言に、獣人たちが同調するように雄叫びを上げた。
現在の魔王に不満を持つ、不穏分子が動き出したのだった。
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