42「魔法少女の理由です」②
「あら、お姉さんのこと気になっちゃうの? おませさんね」
「……私はお前よりもずっと年上なのだが。いや、それはどうでもいい。なぜそうも奇怪な格好をしているのだ?」
ゾーイの遠慮のない言葉に対し、キャサリンは気を悪くした様子なく、ウインクをした。
「我が家に代々伝わる戦闘服を奇怪なんて言ったら、だ、め、よっ!」
つん、と太い人差し指でキャサリンがゾーイの白く柔らかな頬を押す。
ゾーイはすごく嫌そうな顔をした。
「……それ、戦闘服なんですか?」
サムは驚きを禁じ得ず、思わず訪ねてしまった。
魔法少女の格好が初代国王である異世界人の勇者からもたらされたものであることは知っていたが、まさか戦闘用だったとは思いもしなかった。
正直、戦闘用とは思えないほど肌の露出が多い。
アニメが漫画などならさておき、現実世界でこの格好は戦闘に向かないはずだ。
(あれ? でも冒険者の中には、なんでそんなに薄着してるの? とか、それ水着じゃん? みたいな格好している人もいたしなぁ)
しかし、魔法少女の可愛らしい衣装を戦闘服とするのは百歩譲っていいとして、ムキムキのおっさんが無理やり身につけることには異議を申し立てたい。
「もちろん、戦闘服よ。初代ジョンストンが、スカイ王国を建国なさった異世界の勇者様の仲間だったのはご存知かしら?」
「ええ、まあ、一応は」
「勇者様の世界には、魔法使いの女の子が身につける正装があってね」
「……勇者ぁ」
正装かどうかはさておき、魔法少女が身につけるものであることは間違いない。
だが、魔王レプシーと戦っているときに、そんな知識を披露するなんて、ずいぶんと余裕があったんだな、と思わずにはいられなかった。
「教えていただいた初代様が異世界の魔法使い――魔法少女をとても気に入ったようでね、魔法少女に憧れるようになったのよ」
「あのときの勇者の仲間に、貴様のような奇怪な生物はいなかったと記憶しているのだが」
当時の記憶があるらしいゾーイがぼそっとそんなことを言ったので、サムが気になりキャサリンに尋ねた。
「あの、初代ジョンストン様ってどんな方だったんですか?」
「あらあら、サムちゃんまでお姉さんに興味津々なのね! 初代様は、とても小柄で可愛らしい女の子だったと伝わっているわ。肖像画を見たことがあるけど、それはもう愛くるしい美少女だったわよ!」
「あー、なるほどー、そりゃ、勇者も魔法少女を教えたくなるのか?」
初代ジョンストンは、キャサリンのような巌な男ではなく、可愛らしい少女だったらしい。
ならば魔法少女の衣装を教えたことにも納得できる。
「まだ十二歳という若さで勇者様と出会い、一緒に魔王レプシーと戦う決意をされたそうよ。ゾーイちゃんにはあまり気持ちのいいお話じゃないでしょうね、ごめんなさい」
キャサリンは外見はさておき、気遣いのできる性格や、おおらかな一面など、一部を除けば人格者だと思える。
そんな彼女だからこそ、女性たちが慕っているのかもしれない。
「気にしていない。が、うむ、いたぞ。いたぞ、幼い魔法女が! あの子供の子孫がお前なのか!? ……人間とは恐ろしいな、強くなるためなら怪物の血を取り入れるのか」
「いや、あの、違うと思うんだけど」
「そうなのか!?」
どうやらゾーイの中では、ドミニク・キャサリン・ジョンストンという存在は、なにかしら人外の血を引いていると思われているようだ。
サムも、なるほど、と頷きかけたが、魔族たちと交流の少ないスカイ王国ではまずないだろう。
とくに魔王と戦ったジョンストン家の人間が、魔族もしくは他の種族と交わることはしないと思う。
「もうっ、ゾーイちゃんったら! いくら私がキュートだからって、やぁねぇ、純粋な人間よ」
「――嘘、だろ」
「本当みたいですねぇ」
サムは、割と失礼なゾーイの発言をポジティブに受け取ることのできるキャサリンを素直にすごいと思った。
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