23「ビンビンです!?」①




 レイチェルがシナトラ家に突撃した翌日、再びサムは王宮にいた。


(――昨日は大変だった)


 魔王からの招待に始まり、セドリックのルイーズへの恋、レイチェルのデライトへの恋と、デライトの元妻との邂逅など、一日でよくもこれだけイベントがあったと感心する。

 あのあと、レイチェルは「妻だからここで暮らします」と言って、梃子でも動こうとしなかった。

 デライトも王女相手に強く言えず、フランは無言。リーゼが嗜めるが結局駄目で、困り果てていると、突然ステラが妹に当身を食らわせて気絶させてしまったのだ。

 驚くサムとデライトを他所に、女性たちは気にもしていない。

 聞けば、ステラは花蓮から体術を習っているそうで、なかなかの才能があるらしい。しかし、その訓練の結果を妹で披露しなくても、と思う。

 その後、花蓮が意識のないレイチェルを馬車に放り込んで、シナトラ家を後にした。

 散々疲れたせいで、サムは夫婦の営みがいつもよりも短く、早々に眠ってしまったのだった。


(今日の主役はデライトさんだから、昨日よりはマシ……だといいなぁ)


 デライト本人にとっては、迷惑とまでは言わないだろうが、困りごとだろう。

 彼自身、まさか第二王女のレイチェルが、大きく歳の離れた自分に惚れてしまうなど夢にも思わなかったはずだ。

 ちゃんと彼の気持ちを聞いていないが、立場上、嫌だとは言えないだろう。


 そして、昨日と同じクライドの執務室に、宮廷魔法使いの正装で身を固めたサムとデライトがいた。

 膝をつき、椅子に座るクライドと第一王妃フランシス、そして第二王妃コーデリアとレイチェルに挨拶をする。

 クライドとフランシスは気さくで、気楽に接してくれるのだが、コーデリアは形式にうるさいので、サムとクライドも普段とは違い緊張気味に挨拶をする。

 少しでもコーデリアが気に入らなければ、怒鳴られることを知っているからだ。


「……デライトよ」

「――は」


 楽にするように言われ、用意された椅子に座ると、まずクライドが口を開いた。


「レイチェルに関して話は聞いた。正直、驚いた。話すべきことはあるが、まずそなたの気持ちを聞いておきたいと思う」


 クライドは、自分の意見は言わず、まずデライトの気持ちを尋ねた。

 そのことに、コーデリアは不機嫌な顔をしているが、娘のレイチェルはニコニコ顔だ。


「お気持ちはありがたいと思っています。しかし、年齢差がありますし、俺は離婚もしていて、二十歳を過ぎた娘もいます。もうご存知だとは思いますが、かつての妻が昨日乗り込んでレイチェル様と揉めましたし、これ以上のご迷惑はおかけできません。レイチェル様はお若く、これからです。もっとふさわしいよい男がいるでしょう」

「ふむ」


 デライトは無難な断りの言葉を発した。

 クライドは頷き、コーデリアは満足顔だ。そして、断られたにも関わらず、レイチェルはやはりニコニコしている。


「デライト・シナトラは弁えているようだな。安心したぞ」


 コーデリアはデライトの態度に機嫌を良くした。

 しかし、これにレイチェルが反発する。


「お母様、旦那様は照れているだけですわ」

「黙れ、レイチェル! お前の結婚相手は母が探している!」

「お母様の決めた相手と結婚するくらいなら、旦那様と駆け落ちしますわ!」

「ええいっ、デライト・シナトラを旦那様と言うのはやめろ! もう嫁いだつもりか!」

「ふっ、嫁いだどころか孕んでいるつもりですわ!」

「……デライト・シナトラ! まさか、貴様!」

「誤解です! 手を出してなどいません!」

「本当か!?」

「陛下と先祖に誓って!」

「……レイチェル、あまり戯言を言って、私や陛下を煩わせるな」

「わたくしたちの愛は不滅ですわ!」

「……俺を巻き込まないでほしいんですけどねぇ」


 娘の言動に、誤解しコーデリアがデライトを疑ったので、彼は必死になって否定する。

 婚約もしていないどころか、母親が結婚を認めていないのに手を出していた、なんてことになったら大事件だ。


(いや、そもそもデライトさんも昨日レイチェル様の気持ちを知ったんだから手の出しようがないんだけどさ)


「コーデリアよ、レイチェルは本気のようだ」

「陛下! 本気ならばいいというわけではありません!」

「それは私もわかっている」

「実際、デライト・シナトラもレイチェルを受け入れるつもりはないのですから、話はこれで終わりのはずです!」


 サムは、おや、と首を傾げる。

 コーデリアは口調こそきついが、間違っていなかった。

 デライトがやんわりと断ったのだから、話は終わりのはずだ。


「そもそも中年のデライト・シナトラが男として機能しているかだってわからぬではないか! 若い男ならその心配もないはず!」

「お母様! さすがに言い過ぎですわ!」

「レイチェル! お前も、結婚するなら子供を産み、育てるものだ! 男のせいで子供ができなかったらどうするのだ!」


 親子喧嘩に発展しそうな勢いに、クライドが待ったをかけた。


「ふむ、待て、コーデリア。ならば、確かめればいいではないか。デライト、どうだ?」

「……えぇぇ」


 この場でデライト本人に、男として機能しているか聞きだしてしまったクライドに、尋ねられた本人はもちろん、サムも、そしてコーデリアさえ動揺が隠せない。


「あの、陛下、まさか、ここで俺に答えろと?」

「大事なことである。――ビンビンであるか?」



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