6「王子様の相談です」①
「サミュエル・シャイトではないか!」
魔王の招待と変態の同行が決まり、肩を落として王宮を後にしようとしていたサムは、正面からかけられた声に顔を上げた。
「――セドリック殿下」
声の主は、スカイ王国第一王子であるセドリック・アイル・スカイだった。
サムの妻であるステラの弟であり、王位継承権を持ち、父クライドから次期国王に指名されている人物でもある。
サムよりひとつほど年上のまだ少年と言えるセドリックだが、背は百八十近い長身だ。すらりとしながら引き締まっていうのは、騎士団に所属して国民のために剣を奮っているからだろう。
柔らかな癖を持つハニーブロンドの髪の中に、王家特有の銀髪が混じっている。
顔つきこそステラに似通うものがあるが、垂れ目の柔らかい印象を持つ王子だった。
「お久しぶりです」
サムは膝を折り、礼をしようとするが、セイドリックが制した。
「やめてくれ。そなたは姉上と結婚したのだ。そうだな、姉上と結婚したのだ、兄上と呼ぶべきだな」
はははは、と人好かれをする笑みを浮かべて楽しそうなセドリックは、次期国王として期待されている少年でもある。
王子は他にもいるが、正統後継者がセドリックだった。
文武両道で、魔法を嗜み、美少年であることから貴族の子女はもちろんのこと、彼を慕う女性は数多いるという。未だ、彼に正式な婚約者がいないこともあって、見合い話が毎日のように舞い込んでくると聞いたことがある。
民からも人気は熱く、セドリックに憧れて騎士を目指す少年だって多い。
中には、他の王子を国王に、と企む者もいると聞くが、そもそもセドリックが次期国王として選ばれたのは、次の墓守として適切だと判断されたからだ。
魔王レプシーの存在を知らず、担ぎ上げた王子を次期王になどと考えている者たちに、魔王の存在が暴かれていたら大変なことになっていただろう。
王家で魔王レプシーの存在を知っていた人間は少ない。クライドが墓守の人間としてふさわしいものにしか情報共有されていない。
実際、他の王子はまだ幼く、後ろ盾の貴族が操ろうとしている様子もあるので、魔王の存在を知らせるなど論外だった。
現在は魔王レプシーはいないが、それでもセドリックの立場が変わることはないだろう。
そんなセドリックとサムが正式に顔を合わせたのは、結婚式直前だった。王子でありながらとてもフレンドリーに接してくれたのをよく覚えている。
「ところで、王宮に用事だったのか?」
「はい、国王様に呼ばれまして」
「宮廷魔法使いとして忙しいのだな。――うむ、そうなると、あまり迷惑をかけるのはいけないか」
「どうかしましたか?」
なにやら用事がありそうだったので、サムのほうから尋ねてみると、セドリックは少し眉を寄せて困ったように口を開いた。
「いや、そのだな、そなたに相談したいことがあったのだ」
「俺にですか?」
「うむ。もし、この後、時間が空いているのなら、私の部屋で相談に乗ってくれないだろうか?」
「構いませんが、俺がセドリック様のご相談に対応できるかどうか」
できることならセドリックの相談に乗ってあげたいが、王族の抱える問題をサムが解決できるとは思えない。
(誰かを倒せ、というならできるんだけど)
「そんなことはない! そなただからこそ、相談に乗って欲しい!」
「は、はい、俺でよければ、もちろんです」
「感謝する! 私は友人と呼べる存在がいないのでな! こうして誰かに何かを相談したくとも相手がいないのだよ! 助かる!」
悲しいことを大きな声で言うセドリックにサムは涙しそうになった。
(王子に友人がいないって、なかなか凄いな。普通、御学友や、幼少期からの遊び相手などがいそうなんだけどなぁ)
貴族の子供には、幼い頃の遊び相手、側に控える従者、御学友という名の取り巻きなどがいるものだ。
王子となれば特にそうだろう。
無論、そのような人間を友人と呼ぶことはできないかもしれないが、文武両道で多くの人に慕われているセドリックに友人がいないと言うのもなかなか不思議だ。
「あの、ギュンターとは従兄弟で親しいと伺っていますが」
「もちろん、ギュンターとは親しくしている。だが、友人というよりも、兄のような存在だ。ゆえに、少々、この相談をするには気恥ずかしい。なによりもそなたが適切だと思う」
友人がいないというセドリックの悩みの力になれればいい、と思ったサムは気がついた。
よくよく考えれば、サムにも友人と呼べる人間がいない。
基本的に年上の方が多く、友人と呼ぶには失礼だ。ギリギリでギュンターがそうだが、奴は奴で隙を与えると大変なことなりそうなので、友人扱いしていいのか悩む。
「あ、俺もぼっちだ」
「ぼっち? よくわかんが、相談に乗ってくれるならありがたい。さっそく部屋に行こう。そうそう、うまい茶菓子がある。期待していいぞ」
相談、という割には足取りの軽いセドリックの後を、自分に友人がいないことに気付いてしまったサムがとぼとぼと追うのだった。
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