4「王宮に呼ばれました」①
サムはクライド・アイル・スカイ国王陛下に呼ばれ、王宮内にある彼の執務室に通されていた。
途中、サムが斬り裂き破壊した王宮の一角を工事している場面を見つけ、暑い中働いている人たちに差し入れをしようと決めた。
「結婚式以来だな、サムよ」
「はい、国王様」
ソファーに深く座るクライドの隣には、微笑を浮かべた美女――第一王妃フランシス・アイル・スカイもいた。
クライドはサムの記憶にあるよりもニコニコしており、血行もいい。なんというか、晴れ晴れした様子だ。
(クライド様、元気そうだな。やっぱりレプシーの墓守から解放されたのって大きかったんだろうな)
「そう他人行儀にせずともよい。父と呼んでくれ」
「えっと」
「そなたは弟の子であると同時に、娘の夫である。家族ではないか、さ、父と呼んでくれ」
「……お義父様」
「うむ。――いい響きだ」
目を瞑りうっとりと満足そうなクライドに、フランシスが苦笑している。
サムとしては、一国の王を父親呼ばわりするのに気が引けていた。
王弟の息子である実感もいまだにないのだ、無理もない。
「サム、わたくしのこともどうぞ母と呼んでください」
「……お義母様」
「ふふふ、息子はいますが、あなたに母と呼ばれるのも新鮮でいいですね」
フランシスとは、結婚前にクライドから紹介されていた。ステラの母らしく、顔つきや目などがよく似ている。笑った顔など瓜二つだ。
あと、子供がいるとは思えないほど若々しい。ステラと並べば、年の離れた姉でも通用しそうだ。
トラブルに愛されるサムは、なかなかフランシスに挨拶することができなかったのだが、なんとか結婚前に叶った。その後、結婚式を迎えたものの、数える程度しか会話したことがないので緊張する。
「ステラは元気にしていますか?」
「はい、元気です」
「それはよかった。よほど毎日が充実しているのでしょう、手紙ひとつもよこさないので、心配はしていませんでしたが、近況報告くらいはしてほしいと思っていました」
「まあ、そう言うでない。新婚生活が充実してるのならいいことではないか」
「そうですね。ところで、サム」
「はい」
「――夜のほうはいかがですか?」
にこやかなフランシスの口から、耳を疑いたくなる言葉が飛び出てきた。
サムは思わず目を丸くする。
「……えっと」
「あなたのおかげで重荷から解放された陛下は、毎晩のようにわたくしと――」
「あー、ごほんっ! そのくらいにしておこう。母親とはいえ、娘の夜の事情を聞く必要ないだろう。あったとしても、ステラから直接聞きなさい。サムでは答えにくかろう」
フォローしてくれたクライドだが、サムのためというよりも、自分の夜の営みを話そうとした妻を止めたかったように思えた。
(そっかー、クライド様は墓守から解放されて多方面で元気いっぱいかー。ステラ様に弟か妹ができたりして)
「そうですわね。失礼しました」
「いいえ、お気持ちはわかります」
「改めてお礼を言わせてください。塞ぎ込んでいたステラが、明るくなり、幸せになったのはサムのおかげです。母親として、どう感謝していいのかわかりません」
「お礼なんて。ステラのおかげで俺は幸せです。もちろん、これからも。それだけで十分です」
「――よい息子ができてわたくしも幸せです。ねえ、陛下」
「うむ。その通りである」
和やかな感じで会話が進んでいたが、一通り義父母との時間を楽しむと、クライドが難しい顔をして本題を告げた。
「さて、そろそろ本題に入ろう。――魔王から書状が届いた」
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