54「魔王と騎士の会話です」①
魔王ダグラスは、同僚を肩に担いだままスカイ王国を越えていた。
もうしばらくすると、自分たちを迎えにきている同僚たる魔王遠藤友也の転移で帰還すればいい。
目的地まで歩く彼の足取りは軽やかだった。
そんなダグラスに対し、彼を迎えにきた吸血鬼の騎士ゾーイは不満げな顔をして一歩後ろを歩いている。
振り返らずとも、ダグラスにはゾーイが不機嫌なことを手にとるようにわかった。
(まあ、無理もない)
ゾーイはかつて魔王レプシーの眷属だった。
レプシーの妻のメイドとして仕えていた勤勉で生真面目な少女だったが、流行病で死にかけた際に吸血鬼に転化することで死を免れた経緯を持つ。
以後、ゾーイはレプシーとその家族に以前よりも忠誠を誓うこととなる。
だが、その後数年して、レプシーは妻子を失い暴走することになる。ゾーイもそんなレプシーに付き従い、人間の国を滅ぼしもした。
ただ、ゾーイはレプシーのように理性を失うほど怒りに狂ったわけではなかった。もちろん、人間に対しての怒りは主と同等だったが、数年暴れたゾーイは冷静さを取り戻しつつあった。
仕えていた主人を失い、悲しみが癒えたわけではないが、こんなことを望まないだろうと、理性が訴えかけていたのだ。
その後、ゾーイはレプシーに代わりに、彼の妻と子のために祈り続けた。
祈りが十数年続くと、レプシーの敗北と封印を聞かされた。
助けに行こうとするも、魔王ヴィヴィアン・クラクストンズによって止められ、レプシーの本当の願いを知り、手を出さないことを約束した。
その後、ヴィヴィアンの配下となり、夜の国で騎士の称号を与えられることとなり、亡き主人の冥福と、主の平穏が訪れること祈りながら、騎士として働く日々を送ることになる。
レプシーとその家族に、思い入れのあるゾーイだからこそ、サミュエル・シャイトという少年に思うことがあるんだろう。
ダグラスも、いきなりゾーイがサムに仕掛けた時は慌てた。
速さだけなら『魔王級』である彼女を止めることができず、ダフネの登場に感謝したものだ。
「ダグラス様はご機嫌のようですね」
不意に、ダグラスの背後からご機嫌斜めな鈴のような声が届く。
ダグラスは振り返り、頷いた。
「サムがいい奴だったからな」
「ですが、ダグラス様やエヴァンジェリン様が気にかけるほどの人物ではありません。私の動きに反応さえしませんでした」
「お前の速度は俺でも対応できない。サムにそこまで期待するのは酷だろうに」
「レプシー様なら問題ありませんでした」
「あいつとサムを一緒にするな」
「しかし、レプシー様を倒したのがあの子供ならば、あの程度の実力に疑問があります」
「そう言ってやるな。人間の十四年しか生きていない子供でありながら、我々魔族に匹敵、いや、超える実力を持っているではないか」
「しかし、準魔王級というわけではありません。いえ、せいぜい、爵位持ちと同等くらいでしょう」
「あのな、それは強いって意味だからな」
「レプシー様の足元にも及びません」
「比べる対象が悪すぎる。俺だって、レプシーには到底及ばないぞ」
ゾーイの基準はあくまでもレプシーのようだ。比べられるサムに同情してしまう。
サムはスキル込みで相応の強さを持っているのだが、それを鼻息荒くしているゾーイに伝えるのは難しそうだ。
「あの子供に比べれば、後から現れた師匠とやらのほうがよほど納得できます」
「顔は合わさなかったが、遠くからでも存在感はわかったな。魔力こそほとんど感じなかったが、戦士としての勘が告げていた。強い、と」
「同感です。人間にもあれだけのものがいたことに驚きです。それだけに、残念ではあります」
ゾーイの言葉にダグラスは同意するように頷いた。
「まったくだ。あの感じだと、もう一ヶ月も持たないだろうな」
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