8「敵の目的がわかりました」②




「魔王って、いるの!? 魔王いるの!?」


 ウルの言葉に一番驚いたのはサムだった。

 異世界に転生してから数年経つが、魔王の話など聞いたことがない。

 いや、勇者だって同じだ。先日の葉山勇人が勇者を名乗っていたが、あれは厳密に言うと勇者ではない。

 あくまでもオークニー王国で勇者扱いされていただけ、である。


 サムにとって異世界は魔法に溢れるファンタジーだが、残念ながら魔王や勇者はもちろん、エルフやドワーフなどの人以外の種族とも会ったことがなかった。

 例外なのは竜だけだ。竜なら、数え切れないほど会っているし、竜王と戦いもした。 

 そんなせいか、不謹慎ながら魔王の存在に、驚きながらも少し胸を躍らせてしまった。

 そんなサムにウルが不思議そうな顔をした。


「何を言っているんだ。魔王なんて何人もいるじゃないか」

「何人もいるの!?」


 今日一日だけで、もう何度驚いたのかわからない。

 ウルの復活、魔王の存在、さすがに許容範囲を超えている。


「ああ、そうだったな。サムは、大陸の西側事情はまるで知らないんだったな。私が連れて行かなかったというのもあるが、まだ早いと思ったんだよなぁ。ま、それはいいや。あとで話そう」

「あ、はい」


(うん、ひとつはっきりしたのは俺はまだ大陸最強を名乗れないってことだ)


「さて、陛下。話を戻しますね」


 ウルはそう言い、再びクライドに話を始めた。


「私は、生前からナジャリアの民の目的を不老不死だと思っていました。実際に、転化させらえて、不老不死こそ難しくとも、人間から他の種族になることで寿命を長くしようとしているのだと理解しました。まあ、転化に必要らしい祭壇は木っ端微塵にしてきましたけどね」

「我が国でも、不老不死という愚かな願望に取り憑かれた者が、ナジャリアの民に協力しているのがわかっている。少々の害はあるが、いざという時まで泳がしていた」

「みたいですね。しかし、寿命が目的ならスカイ王国に手を出す必要はない。もともとこのあたりに住んでいたという妄言を吐いている奴らがいるそうですが、それを隠蓑にしてナジャリアの民と腹心たちが、本来の目的のためにひっそりと動いていた。それが、魔王の復活だ」


 サムは疑問を覚えたので、恐る恐る尋ねる。


「あのさ、どうしてスカイ王国を狙うんだ? 不老不死もそうだけど、魔王だって関係ないじゃん」

「サムよ、無関係ではないのだ。スカイ王国王宮には、魔王の亡骸が眠っている」

「はぁ!?」


 サムの疑問に答えたのは、クライドだった。


「ど、どいうことですか、国王様! この国に、ていうか、王宮に魔王がいるんですか!?」


 驚愕の事実だった。

 まさか、亡骸とはいえ魔王がこんなに身近にいたとは夢にも思っていなかった。


「サム、黙っていてすまなかった。おいそれと公言できる話ではないのだ。このことを知っているのは、代々の国王と、例外としてイグナーツ公爵家の人間だけだ」

「じゃあ、ギュンターも?」

「すまないね、サム」


 ギュンターは困った顔をしていた。

 サムやウルに偏愛を抱く彼だが、公私はしっかりわけているようで、王国の秘密を今まで隠してきたのだ。


「ギュンターには、魔王の墓所に結界を張る役目を担ってもらっているのだよ」

「確かに、ギュンターの結界術は堅牢ですからね。あの、なぜイグナーツ侯爵家だけに? もっと協力者を増やせば、ナジャリアの民に遅れをとることだってなかったのではないでしょうか?」


 サムの疑問に、クライドは首を横に振った。


「それはできぬ。かつては、他の一族にも協力を求めたこともあった。しかし、魔王に魅入られる者、当時復活を試みようとする人間に内通する者など、すべてではないとはいえ少なからずいたのだ。結局、秘密は隠しておくのが一番だという結論に至ったのだ」

「ま、仕方がありませんよ。貴族なんてそんなもんです」

「実際、今、魔王の存在は知らずとも、ナジャリアの民が掲げる不老不死を欲し、国を裏切る貴族がいるのだから、とてもではないが信用などできぬさ」

「ですが、陛下。ここまできたら、私たちにはすべてを話してくれますよね」


 ウルがまっすぐクライドを見つめる。

 王は、頷いた。


「もうそなたたちは当事者だ。すべてを話そう、ついてきなさい。魔王の墓所に案内しよう」



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