7「敵の目的がわかりました」①
一時間後、サムはウルとギュンターと一緒に王宮にいた。
当初、花蓮と水樹もついてくると言ってくれたが、ウルが屋敷を守ってくれ、と願うとふたりは素直に承諾してくれた。
すでに深夜のため、王宮に入ろうとすると近衛兵に止められたのだが、火急の用事があると押し通した。
近衛兵たちも役目を果たさそうと渋ったものの、王国最強の魔法使いのサムと、宮廷魔法使いであり公爵家次期当主のギュンター、そして死んだはずの元宮廷魔法使いのウルが並ぶと、従う他なかった。
そして、サムたちは、スカイ王国国王のクライド・アイル・スカイの寝室の前にいた。
ウルは真夜中にもかかわらず、どんどんっ、と音を立てて豪快にノックをした。
「――誰だ?」
部屋の中からクライドの声が帰ってきたので、代表してサムが扉越しに声をかけた。
「えっと、夜分に申し訳ございません、サムです」
「サムだと? とりあえず、入りなさい」
最初硬めだった声音が、サムの名を聞いた途端柔らかいものへと変わった。
「……おい、陛下ってなんだかサムに甘くないか? 普通、夜中に急にやってきたんだから叱るとか、文句言うとかしないか?」
「ウルリーケは知らなかったね。サムは、陛下の甥にあたるんだよ」
「はぁ!? なにそれ、え、嘘ぉ。ま、まあいいや、とりあえず、それはあとで聞くとしよう」
ウルとギュンターのそんなやりとりを聞きながら、サムはゆっくりクライドの寝室の扉を開けた。
部屋の中は明かりがつけられており、クライドは机の上で書類整理をしていたようだ。
まだ寝巻きにも着替えていない。
「クライド様、突然のご無礼に謝罪します」
「構わぬよ。見ての通り、余はまだ寝ていなかったのでな。ギュンターもいたのか、それに、もうひとり――なに?」
クライドは、サム以外にも来客がいることに気づき顔を上げ、そして目を見開いて手にしていたペンを落とした。
「そんな馬鹿なことが……ありえぬ、なぜウルリーケがいる? そなたは亡くなったはずではなかったのか?」
「ナジャリアの民のせいで期間限定復活中です」
そう言って肩を竦めるウルに、クライドは苦々しい顔をした。
「あの一族はそんなことまでできるのか。奴らの目的がわからぬことが、恐ろしくてならぬ」
「あー、いや、そんな芝居はもうしなくてもいいんで」
「なに?」
ナジャリアの民に、改めて脅威を感じたクライドに、ウルが言い放った言葉は衝撃的だった。
「ウル? なにを言って、芝居ってどういうこと?」
サムの疑問に、ちょっと待っていろと制すと、ウルはクライドに言葉を続ける。
「陛下、私はナジャリアの民の集落で目覚めました。サムと戦う駒にされるところだったんですよ」
「……よほどサムが邪魔だと見えた。そなたの亡骸を奪ったのも、サムに対して利用しようとしていたのだな」
「みたいです。で、あんな奴らが私を操れるはずがなく、ナジャリアの戦士たちと戦うことになりました。もちろん、こうして私がここにいるので、勝敗は聞くまでもないでしょう」
「さすがウルリーケ・シャイト・ウォーカーである。ナジャリアの戦士と戦い無事に戻ってくるとはなによりだ」
「あ、違います。ナジャリアの民に、もう戦士はいません」
「――っ、それはつまり、まさか!」
「ええ、戦士たちは全員殺してきました」
「……それはなんという快挙か。今まで誰ひとりとしてそのようなことはできなかった」
クライドはウルの言葉を信じた。
幼い頃からウルのことを知っているクライドは、彼女が妄言を吐くような人間ではないことくらいわかっている。
そして、ナジャリアの民を相手にして勝てるほどの実力者であることも知っていた。
「非戦闘員、ただの民にまで手を出す趣味はないので放置してきましたが、あの一族を滅ぼすかどうかは陛下にお任せします。拠点も覚えているので、必要があれば案内もします。やれと言われれば、元宮廷魔法使いとして働きもしましょう」
「そなたが力になってくれるのであれば心強い!」
「ですが、その前に、陛下にも腹を割って話してもらいたいんですよ」
「――なんのことだ?」
「だから、もういいですって。私はおおよそですが、知っています。クライド陛下、そして、お前だ、ギュンター。ふたりは、ナジャリアの民の真の目的と、スカイ王国が狙われている理由を最初から知っているだろ」
「…………」
クライドもギュンターも反論することなく、沈黙で答えた。
「沈黙は肯定と取りますよ」
「なんのことだ、とは言わせてくれないのだろうな」
「もちろんです。戦士たちを倒す前に、軽く拷問したので、ある程度の情報はあります。ですが、それを陛下に確かめたかった」
ふぅ、とクライドが大きくを息を吐いた。
「ならば、逆に問おう。そなたの知る、ナジャリアの民の悲願とはなんだ?」
「――古の魔王の復活」
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