51「ヴァイク国王の謝罪とお願いです」




 交流会の翌日、王宮に呼び出されたサムは、クライドの元を訪れていた。

 しかし、国王の控室には、会いたくない人間――ヴァイク・オークニー国王がいた。


「国王様、俺はヴァイク国王様とお話しするつもりはありません」


 自分を利用しようとした人間と顔を突き合わせる趣味はない。

 葉山勇人に手を焼いていたヴァイクの気持ちはわからなくもないが、巻き込まれた方はたまったものではない。

 しかも、婚約者たちに被害が及ぶ可能性があったのだから、サムの怒りは正当なものだ。


「そなたの気持ちはよくわかる。ヴァイク殿に怒りを抱いているのは、余も同じだ。だが、どうしても直接謝罪したいと懇願された故、断ることができなかった。すまぬ」

「いえ、国王様が謝る必要などありません。悪いのは、この男なのですから」

「とにかく話をきいてやってくれ」

「はい。で、なんでしょうか。一応、言っておきますが、あなたに対する敬意は持ち合わせていません。あなたの言葉が気に入らなければ、一国の王だろうと容赦無く手を出させてもらいますよ」


 不敬など知ったことかと言わんばかりのサムの態度だが、ヴァイクは嫌な顔をしなかった。

 それどころか、その場に膝をつき、深々と頭を下げた。


「――奴を、葉山勇人を倒してくれて感謝している」

「はっ、勝手に呼び出しておいて、手がつけられなくなれば誰かに始末させようとする……素晴らしい国ですね、オークニー王国は」

「耳が痛いが反論できぬ。君と婚約者を巻き込んだことも、改めて謝罪させてほしい申し訳なかった」


 仮にも一国の王が、友好国の王の前で土下座している光景を、第三者が見たら絶句するだろう。

 だが、サムは心を動かされることはなかった。

 幸い、大切な婚約者たちに大事はなかったが、もし葉山勇人の魅了によって弄ばれていたら、サムはヴァイクを含め、オークニー王国に人間をただではすませなかっただろう。


「葉山勇人もクズだが、あんたらだって負けていませんよ」

「わかっている。一番の責任は俺にある。それは否定しない。できもしない」

「で、話はそれだけですか? 謝罪ならもう結構です」

「待ってくれ、シャイト殿の持つスキルをもう一度使って欲しいのだ!」

「どういう意味ですか?」

「葉山勇人の残された魔眼を潰すために、何度か左目を潰した。しかし、治療すると、魅了の魔眼も一緒に復活してしまうのだ。そこで、我らは考えた。そなたのスキルのような何か特別なもので目をつぶさなければならないのだ、と。ゆえに、頼みたい」

「つまり、俺が奴のもう片方の目も斬り裂けばいいんですね?」

「そうだ。やってくれないか?」


 サムは嘆息した。

 それならいっそ、目を潰したままにしておけばいいのに、と思う。

 だが、オークニー王国は勇人の戦力を今後も利用したいのだから、可能であれば万全の状態にしておきたいのだろう。


「……わかりました。ただし、条件があります」

「言ってくれ」

「――二度と、俺の前にお前らの姿を見せるな」


 サムとしては、二度と利用されるのはごめんだった。

 ヴァイクは、力なく頷いた。


「そなたの怒りは理解できる。許せとも言わない。だが、こちらの都合もあったのだとわかってほしい」

「婚約者を巻き込まれた身としては、知るか、と言いたいですね」

「で、あろうな。すまないと思っている。だが、奴を止められる人間は、我が国にはいなかったのだ」

「だからって――いえ、もういいです。もう終わったことを話しても意味がない。どうでもいい。ですが、約束してもらおう。二度と、ステラ様たちをくだらない思惑に巻き込まない、と」

「わかった。約束する。二度と、そなたの婚約者たちを巻き込みはしない」


 未だ膝をつくヴァイクの首に、右手を添えた。


「約束を破ったら、この首が胴体とさよならすると思ってくださいね」


 とんとん、と右手でヴァイクの首を叩いた。

 その気になれば、スキルを使わずとも、この場で首を切り落とすのは可能だ。

 感情的には斬り落としてやりたいが、それではスカイ王国に迷惑がかかるのでできない。


「……肝に命じておこう」


 若干震える声で返事をしたヴァイクを見て、サムは離れた。

 このまま近くにいたら我慢ができなくなりそうだった。


「じゃあ、葉山勇人の残った目を潰しにいきましょうか」


 サムがそう言い、ヴァイクが立ち上がろうとしたときだった。


「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」


 王宮内に誰かの絶叫が響き渡った。



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