10「国王様とお話しです」②
「ところで、ステラとの関係は良好のようだのう」
「ええ、手紙のやりとりだけしかできていないことが心苦しいですが」
他の婚約者たちが一緒に楽しく生活しているのに対して、ステラだけが王宮から手紙を送ってくることしかできないことが申し訳ない。
サムもどうせならステラと顔を合わせて話をしたいが、おいそれと王宮に足を運ぶのもいかがなものかと思ってしまう。
「そんなことはあるまい。先日、そなたから送られたハンカチをうれしがっていたぞ」
「喜んでいただけたのならよかったです」
「余は、サムとステラがこうも毎日手紙を交わすとは思っておらなかった。だが、よいことだ。あの子も喜んでいる。そこで、だ」
「はい?」
「そろそろ、サムとステラに一緒に暮らしてほしいと考えている」
「では、旦那様へお話を」
「待て待て、少し待つのだ、サムよ」
ステラが屋敷に来るのなら準備が必要だ。
申し訳ないが、ジョナサンにいろいろ手配してもらわなければならない。
そんなことを考えるサムに、クライドが待ったをかける。
「そなたはこの先もウォーカー伯爵家に世話になるつもりか?」
「えっと、いけなかったでしょうか?」
リーゼのことを考えると、この先も伯爵家で生活するのが一番ではないかと思っていた。
ジョナサンたちも初孫のそばにいたいだろうし、リーゼも妊娠しているのだから居心地がいい場所にいた方がいい。
「悪いとは言わぬが、そなたはすでに伯爵位を持っているのだぞ。自分の屋敷くらい構えたらどうだ?」
「あー、そういうものですか?」
「そういうものだ。そう面倒くさそうな顔をするな。確かに屋敷を探すのは一苦労だろうが……そこで、だ。余から屋敷をそなたくくれようと思う」
「え?」
「余の亡き弟の屋敷で、あまり大きなものではないが」
「ですが、その」
まさか屋敷を貰えるなんて想像していなかっため、戸惑いを隠せない。
同時に、自分の判断で勝手に決めていいものかと悩む。
婚約者たちと相談したかった。
「ここだけの話、そなたには迷惑をかけすぎている。アルバートからはじまり、蔵人の一件まで。しかし、余はそなたになにも報いていない。それが申し訳ないのだ」
「そんな、俺は気にしていません」
「余が気にしてしまう。そなたは優しくいい男子であるが、その優しさに甘えてばかりいるのが心苦しいのだよ。それに、ステラがそなたと一緒に暮らすようになっても、ウォーカー伯爵家では気を遣ってしまい、気軽に会いにいけぬのだ」
「ああ、なるほど」
「いずれはそなたとの間に子供もできるだろう。それを考えると、気負わずに会いに行ける場所がほしいのだ。受け取ってくれるな?」
国王にそこまで言われてしまうと、遠慮するのも申し訳がない。
婚約者たちと、ウォーカー伯爵家のみんなと相談は必要だが、
「ありがたく頂戴致します」
クライドの好意を無碍にできず、感謝しもらっておくことにする。
「――うむ」
国王はサムの返事に、満足そうに頷いた。
「詳細は追って伝えよう。最後に、もうひとつそなたに伝えておきたいことがある。先日、ギュンターたち以外の宮廷魔法使いについて話をしたのを覚えておるか?」
「もちろんです」
貴族派の介入で、実力が足りていないにもかかわらず宮廷魔法使いの地位にいる者たちのことだ。
それらの人間には、サムと決闘することを条件に、宮廷魔法使いでいられると通達した。
その後、どうなったのか、サムは聞いていなかった。
「結局、そなたと決闘してまで宮廷魔法使いの地位を守りたいという人間はひとりもいなかった」
「え?」
「皆が、アルバートの二の舞を恐れ、決闘を拒み、役職と爵位を放棄したのだ」
「そんな馬鹿な」
まさか宮廷魔法使いの座をそう簡単に手放すとは思わなかった。
全員でなくても何人かと決闘すると考えていたので、驚きだ。
「サムにはわからぬかもしれぬが、所詮、立場を利用して甘い汁を吸おうと考えていた人間などその程度ということよ」
「そんなもんなんですね。ちょっと俺にはわかりません」
「そなたはそれでいいのだ。ただ、少々面倒なことが起きてのう」
「――あ、嫌な予感がする」
だいたい大人がこういう言い回しをするときは、面倒なことに巻き込まれるのが大概だ。
「そなた、ギュンター、木蓮の他に、宮廷魔法使いとしての責務を果たし、国に尽くしてくれている人物がいる。その者の名は、ドミニク・ジョンストン」
「ドミニク・ジョンストン様ですか?」
「うむ。ドミニクは優れた魔法使いだ。そなたとアルバートの決闘に居合わせなかったのも、辺境でとある民族と小競り合いをしていたせいだ」
「その方がどかしたのですか?
「サムの力をぜひ見たいそうだ」
申し訳なさそうに告げた国王に、サムは天を仰いだ。
「あ、やっぱり面倒ごとだ」
サムの予感が確信に変わった。
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