4「またしてもお見合いのお話です」①
「つまらない話をしてしまったが、よろしく頼む。ところで、話は変わるが、そなたはウォーカー伯爵の娘のリーゼロッテと婚約したそうだな」
「はい。素敵な方とご縁を結ぶことができて嬉しく思っています」
まさか国王の耳にリーゼとの婚約が届いているとは思わなかった。
「リーゼロッテのことは余の耳にも入っている。決してよいとは言えぬ結婚をしてしまった彼女を、そなたが力一杯愛してやるといい」
「はい。リーゼ様のことは俺が幸せにします」
「それでいい。あの娘のことは幼い頃から知っているゆえ、幸せになることを祈っている」
「ありがとうございます」
サムは素直に頭を下げた。
リーゼの幸せを国王が祈ってくれていることに心から感謝すると同時に、必ず幸せにしようと改めて決意する。
「そういえば、木蓮の孫とも近々会うことになっているとも聞いたぞ」
「はぁ、なぜかそうなってしまいまして」
木蓮のこともご存知のようだ。
困った顔をするサムに対し、クライドは微笑を浮かべている。
「ふふふ、木蓮め。なかなか手際がいい。そこで」
(え? そこで、ってなに? すごく嫌な予感がするんですけど!)
「余の娘とも見合いをしてもらおう」
「――はい?」
「うむ。よい返事だ」
「違うから! ――あ、すみません。つい素が出てしましました」
つい反射的につっこみを入れてしまい、慌てて謝罪する。
だが、素になってしまうのも理解してほしい。
なぜこの話の流れで、国王の娘――つまり王女と見合いをすることになるのか理解できない。したくない。
「よいよい、父と子になるのだから気安く接してくれればよい。そうだ、そなたのことをサムと呼ばせてもらおう。構わぬか?」
「は、はい、どうぞ、お呼びください」
「では、サムよ。我が娘、ステラと見合いの件だが」
「いえ、あの、少々お待ちください!」
「なんだ? ――まさか、余の娘では不満と申すか!」
「ち、違います! そうではなくてですね」
「冗談だ、慌てるでない」
(冗談でもやめてくれないかな! 急にキレたからめっちゃビビたんですけど! ていうか、意外と気やすいな、この王様)
婚約したての身である自分が、木蓮の孫娘と見合いをすることでさえ困惑しているというのに、王女と見合いなんて考えただけでも胃が痛くなる。
(そもそも平民と王女様じゃ身分が――よし、それを理由になんとか回避しよう!)
「あの、せっかくのご提案ですが、俺と王女様とでは身分に釣り合いがとれません」
「そうか?」
「ご存知かと思いますが、俺はもともと田舎の男爵家の出身です。しかも、今は縁を切っているのでただの平民です。そんな俺に王女様など」
頭を下げ、訴えるサムだが、口元はにやりと笑っていた。
身分の違いを口実に、うまくやったと確信したのだ。
しかし、
「なにを言う。そなたは宮廷魔法使いになったのだから、伯爵位を与えるのだぞ。釣り合いなら取れているではないか」
国王の言葉にサムは絶句し、絶望的な顔になった。
(しまったぁああああああああああああ、そうだったぁああああああああああ!)
「そ、そそそ、それでも」
「サムよ。そなたの気持ちも理解できないわけではない。ハーレムを築くというのは、割と羨ましがられることもあるが、実際やってみるとかなり疲れるものだ」
「あの、国王様?」
「片方を優遇すると、もう片方に角が立つ。夜の関係も、子供もそうだ。ちょっとしたことで争いの火種となってしまうこともある」
(そうじゃないから! 俺が言いたいのは、リーゼ様だけでいいって言ってんだよ! イチャイチャ新婚生活送らせてよ! 奥さん二人も三人もいらないから! リーゼ様だけがいいの!)
「いえ、あのですね、俺が言いたいのはそういうことではなく、結婚する人はひとりでいいかなーなんて」
「駄目である」
「でしょうねー」
木蓮に続き、国王にまで見合いを勧められてしまったサムは、もう隠すこともせず大きく嘆息するのだった。
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