17「家族たちは心配です」③




 ジョナサンもリーゼも息を飲んだ。

 またしてもサムの実力を見誤っていたと知ったからだ。

 確かにサムはギュンターの結界を破って見せた。

 それはウル以外にはできなかったことだ。


 その時に、ジョナサンもリーゼもサムの実力を想像していたよりも上だと認識を改めたばかりだ。

 それでも、王国最強に勝てるほどの実力ではないと思っていた。

 単純に、彼の身を案じていたのもある。

 だが、どこかでまだ子供だと侮っていたのかもしれない。


「ただ」

「ただ、なんだ?」

「僕も短時間しか戦っていませんし、負けた身で偉そうなことは言いたくありませんが、技術で言えばデライト殿が、人間を倒すという意味ではアルバートのほうが上かもしれません」


 ギュンターの補足に、ジョナサンとリーゼが沈黙した。

 しばらくして、口を開いたのはリーゼだった。


「たとえ可能性があっても、不安が残るのなら私は心配だわ」

「わかっているよ。僕だってそうさ。だけどね、サムはウルリーケと各地を転々として経験を積んでいるらしいじゃないか。僕の推測が正しいかどうかわからない」

「そうでしょう!」

「だが、悪く考えても仕方がないさ。僕たちが思っている以上に、サムは経験豊富で強いかもしれないよ」

「そんな憶測で!」

「信じるのも愛さ」

「――っ、私がサムを信じていないわけがないでしょう!」

「そんなことはわかっているよ。とても、よくね」


 リーゼはただ心配なだけだ。

 姉の残した大切な弟子であると同時に、サムはもうかけがえのない家族だ。

 彼に何かあったら、と思うだけで背筋に冷たい汗が流れてしまう。


 サムがアルバートに勝つとか負けるの問題ではない。

 アルバートのような実力があり性格に問題があるような人間と戦わせたくないのだ。


「リーゼ。君は少しサムに対して過保護になっていないかい?」

「そんなこと!」

「ないとは言わせないよ。気持ちは理解できる。僕だって愛しいサムのことが心配でならない。あんな野蛮な人間と戦わせるなんて、考えただけでもゾッとする。だが、他ならぬサム自身が望んだことでもある」

「……それは」


 ギュンターの指摘にリーゼは言葉を詰まらせた。

 彼の言っていることは正しい。

 アルバートと戦うことを一番望んでいるのは、サム自身なのだ。


「ただ、誤解しないでほしい。僕だって手放しでサムの勝利を馬鹿みたいに信じているわけじゃないよ。仮にサムが敗北するようなら、殺される前に介入しよう」

「……本当?」

「亡きウルに誓って、サムを守ってみせよう」

「――わかったわ。なら、これ以上言わないわ」

「リーゼもギュンターも落ち着きなさい。私もサムが心配なのは同じだが、決闘はもう決まってしまったのだ。覆すことはできないのだぞ」


 ジョナサンに窘められ、リーゼもギュンターも冷静になった。

 ふたりともサムを案ずる思いが強く、感情的になっていた。


「幸いというべきか、デライト殿がしばらく面倒を見てくださるそうだ」

「ほう。あのデライト殿がサムのことをですか?」

「……それはフランも喜ぶでしょうね」

「どうやら彼は、サムと出会ったことで変化が訪れたようだ」


 完全に立ち直ったとは言えないが、デライトが再び魔法に関わることは朗報だった。

 ジョナサンは、やはりサムとデライトを会わせたのは正解だったと確信する。


「それよりも、私が不安なのは、サムがあの調子で国王様の前でやらかさないかどうかだよ」

「ありえますね。ウルリーケもサムも気に入らない人間にはとことん好戦的なようですから、アルバートを前にしてやりすぎる可能性もありますね」

「ウル姉様は何度かやらかしているし、心配ね」


 三人の心配は、サムとアルバートの戦いから、サムが国王の前で粗相をしないかに変わっていった。

 彼がいい子であることはわかっているが、今回の決闘といい、後先考えずに行動してしまうことがあるようだ。

 そんなところまで娘に似ずとも、とついジョナサンは苦笑いをしてしまう。


「まず、明日サムに話をしよう。あまり過剰な心配はよくない。彼を不安にさせたくないしね」


 ジョナサンの言葉に、リーゼとギュンターは頷いた。

 気づけば、すっかり夜も更けている。

 三人は、残ったワインを飲み干し、話し合いを終了したのだった。


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