57「変態の妻になれと言われました」②
「なんでそうなるのよ! この変態! お姉様にストーカーしていただけじゃ飽き足らず、サムを妻にするとか頭おかしいんじゃないの!?」
「言っておくけど、サムは男の子よ?」
言葉を失っているサムの代わりに、エリカとリーゼがギュンターの腕を払い、間に割って入ってくれる。
情けないが、サムはすぐにふたりの背中に隠れた。
「ふふふ。エリカ、リーゼ、僕が彼を少女だと勘違いしているとでも思っているのかい? もちろん少年だとわかっているよ」
「だとしたら、度し難い変態じゃない」
「正気じゃないわね。早く病院で頭を見てもらうことをお勧めするわ」
「これは手厳しい。だが、私は正気だよ。ウルが亡くなったことは、認めたくないが認めよう。だが、ウルの全てを受け継いだ子がいる。ならば、その子が新しいウルだ! ウルのすべてを受け継いだサミュエル君なら、僕の妻になる資格は十分ある! さあ! 僕と結婚しよう!」
もうサムはドン引きだ。
リーゼとエリカも頬が引きつっている。
(この人、やばくね?)
ギュンターのウルに対する執着が凄まじい。
というか、頭がおかしい。
いや、もしかしたら、彼はウルを失った悲しみを直視できず、こんな言動をしているだけなのかもしれない。
それでも正気を疑うには十分すぎる。
「えっと、あのさ」
恐る恐る、姉妹の背中から顔を出し、ギュンターに声をかけてみる。
すると、
「――ぐっ、うっ、うぅぅぅぅぅっ」
なぜか苦しげに胸を押さえて彼はその場に膝をついてしまう。
「え? ちょ、どうしたの?」
汗を流し、顔色の悪いギュンターをさすがにサムも心配した。
「お、おい、大丈夫か?」
「す、すまないね、持病が……薬を失礼してもいいかな?」
「あ、ああ、もちろん。どうぞ」
「ありがとう。では、失礼するよ」
ギュンターは小刻みに震える手を懐に伸ばし、赤い布切れを取り出した。
「――は?」
「ちょ!」
「……信じられないわ」
サムが目を疑い、エリカが目を見開き、リーゼが呆れた。
彼の手にあるのは、間違いなく女性用のショーツだった。
「ていうかあれウルお姉様の下着じゃない!」
「呆れた。また盗んでいたのね」
「いやいや、持病で苦しんでいるのになんでウルの下着が出てくるの? それでなにするつもりなの!?」
三人の反応に気付いていないのか、ギュンターはショーツをゆっくり顔に近づける。
「すぅうううううううううううううううううううううっ」
そして、ショーツを自らの鼻に押し当てて大きく深呼吸をはじめた。
「はぁはぁ、ああっ、ああああっ、ウルリーケの香りがするっ! ああっ、僕を癒してくれるのはウルリーケ、君だけだっ! そう、あの日、子供の頃初めて出会った時から僕は君に夢中だった。君の夫になることだけを目標とし、魔法使いとしても君の隣に立とうと自らを高め続けた。無能な兄を蹴落として公爵家次期当主にもなった。なのに、なのになぜ、僕をおいて亡くなってしまったんだぁあああああああああああああっ! すぅぅぅううううううううううううううううっっ!」
亡きウルを想いながら彼女の下着の匂いを嗅ぐギュンターに、サムはもちろん、リーゼもエリカも思考が止まる。
サムに至っては、最愛の師匠の下着を顔に押し当て恍惚としている変態に、背筋が凍る思いだ。
リーゼたちだって、姉の下着になにをしているんだと声を大にして言いたいはずだ。
「すーはーすーはーっ、くんかくんかっ、すぅうううううううううううううっ」
三人の視線など気にしてもいなとばかりにショーツで深呼吸を繰り返す変態の姿に、サムはすべての感情をひとつにまとめて吐露した。
「――きもっ!」
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