18「運命の出会いです」③





「ご馳走様。ありがとう、まさか空腹で倒れるとは思っていなかった。はははは」

「この女……ダフネの作ってくれたお弁当、全部食いやがった」


 空っぽになった弁当箱を見て、涙するサム。

 せっかくダフネが腕によりをかけて作ってくれた弁当を一口も食べることができなかった。


「すまんすまん。アイテムボックスを持っているから、いつでも食事できると思っていたんだけどね。肝心な食料を入れるのを忘れていたんだ」

「アイテムボックス!?」


 ――アイテムボックス。

 その単語に、サムの怒りと悲しみがすっとんでいく。

 まさかこんなところで、ファンタジーに満ち溢れた単語を聞けるとは思わず、目を輝かせる。


「アイテムボックスってあるの? どこで手に入るの?」

「落ち着け少年。アイテムボックスは、私のスキルだよ。買って手に入るものじゃないさ」

「なんだぁ」

「ふふん。これは希少なスキルなんだぞ、羨ましいだろう!」

「いいなー! いいなー! 俺もほしいなー!」

「残念ながら少年にくれてやることはできないぞ。スキルは生まれながらのものだからね。――うん? なんだ、少年もスキル持ちじゃないか」

「え? 俺、なんかスキル持ってるの?」

「気付いていなかったのか?」


 初耳だった。

 同時に、胸が弾んだ。

 まさかこの身にスキルが宿っているとは夢にも思っていなかった。


(もしかして、俺にもアイテムボックスがあるとか!? いやいや、下手したらもっとすごいものが)


「そ、それで、俺にはどんなスキルが!?」

「嬉しいのはわかるが、落ち着け、少年。といっても、無理はないか。スキルを持って生まれる人間は、魔力を持って生まれる人間よりも少ないからな。ある意味、世界に愛されている証拠だ」

「そんなこといいから早く早く!」

「子供だなぁ。ま、いいさ。少年のスキルは、ふむ『切り裂くもの』というスキルだな」

「『切り裂くもの?』」

「察するに、切ることに特化したスキルではないかと思うぞ。よかったじゃないか。剣を握れば一騎当千かもしれないぞ?」


 女性の言葉に、ショックを受けサムは地面に膝をついた。


「切ることに特化したスキルなんて、あんまりだ」

「ちょ、なにを落ち込むんだ少年? 私は使わないが、スキルもちの剣士なんてそうそういないぞ。うまくいけば、国の騎士団にスカウトされることだってあるんだぞ?」

「……剣を使えないのに、どうやって?」


 あまりにも宝の持ち腐れだった。

 サムに少しでも剣の才能があれば、切ることに特化したスキルを持っていることはプラスに働いただろう。

 しかし、サムは剣の才能が皆無だ。

 剣が苦手というレベルではなく、まったく使えないのだ。

 そんなサムに、切ることに特化したスキルを与えて、一体何の役に立つというのだろうか。


「少年? なにか訳ありか?」


 地面に両手をつき、項垂れるサムの顔を女性が覗き込んだ。


「よくよく考えれば、こんな森の中に子供がひとりというのも変な話だ。よかったらお姉さんに話してみないか?」

「……えっと、なにをです?」

「君の、今までと、これからを、さ」


 そう言って女性は微笑んだ。

 善意で言ってくれたのか、好奇心なのかはサムにはわからない。


「どうして初対面の人に」

「なに、少年の大事な食事をもらったからね、ちょっとした恩返しだよ」


 ニコニコと微笑む彼女に、今までに出会った人とは違う、なにかを感じた。


「おっと、私としたことが、まだ名乗ってもいなかったね。少年が警戒するのも無理はない」


 彼女はそう言うと、立ち上がり胸を張った。


「私は、ウル・シャイト。天才魔法使いだよ」


(うわー、この人、自分で天才って言っちゃうタイプなんだ)


 緋色の髪の美人が、凛々しく天才を自称する様はむしろ堂々として似合っていた。

 信じてしまいそうになる。


「それで、少年の名前は?」

「はぁ、俺はサミュエルです。サムって呼んでください」

「サム、サムか。うん。いい名前だ」


 少年の名を噛みしめるように呟く女性――ウル。

 彼女は何度か頷くと、サムに手を伸ばす。


「さあ、君のことを教えてくれ」


 サムは、不思議と抵抗なくウルの手を取った。

 そして、気づけば、自分のことを彼女に話してしまっていた。




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