第9話 突発型ダンジョンからの脱出
それから魔力の回復のためにきっちり2時間仮眠を取った瑞希が目を覚ますと、そこには両手をついて絶望をしているような姿をしている凛華が目に映った。
「…お、おはよ~。えっと、大丈夫…?」
瑞希がそう声をかけるとちらりと凛華は顔を上げて瑞希の方を向いた。
「あ、起きたんだ…。燃え尽きちまったぜ…」
凛華はそう言うとこの2時間の努力について語り始めた。
「私もね、瑞希が起きるまでに魔法を使えるようになって『どうだ、すごいだろー!』 って言ってやるつもりだったんだよ!? だけど、なんとなく感覚も掴めてきてこれだって思ってもできなくて、でも何かを手に集中させたりできるようになってるし、きっと私がこの2時間で身につけたものは気力を操る方法なんだってさっき気が付いたの…」
凛華はそう言って再びいじけているので、凛華に対して鑑定を行ってみると、確かにスキル欄に〈気力操作〉というスキルが新しく現れていた。
瑞希はそんな凛華に声をかけるのではなく、とりあえず自分も魔力を回復させたのだから魔力を操る方法を習得しようと体の中にあるエネルギーを操ってみた。
(多分こっちのモヤモヤとした柔らかくて暖かいものが魔力で、こっちの硬く鋭くて、冷たいものが…、あ、暖かくなってきた、これが気力かな?)
瑞希は鑑定を繰り返し使用していくことでなくなっていく力を直ぐに感じ取り、また同じように刀剣解放の時に急激に使用された力についてもしっかりと感じ取ることができた。
そして、瑞希はそれらを体の中に循環させるイメージで手や足に動かしていると、徐々にスムーズに動かせるようになっており、今なら魔法や討議を繰り出せそうという感覚だった。
「マナボール!」
瑞希が集約させた力を魔法名を宣言しながら放出すると、手から透明のようなぼやけた輪郭をしたボールが飛び出し、ダンジョンの壁を穿った。
「え…」
凛華はその音で何か起こったのかと顔を上げると、そこには手を壁に向けた瑞希が立っているだけだった。
「えっと…、魔法使えた、よ…?」
瑞希のその言葉に凛華は目に涙を浮かべ、そして瑞希に詰め寄ると彼女の肩をがっしりと掴み激しく前後に揺らしながら彼女は叫んだ。
「なんで、なんで! 私はこんなに練習したのに魔法使えないのに、瑞希はどうしてすぐ使えるのさ!」
「お、落ち着いて、凛ちゃん、お、教えるから落ち着いて~!」
グラグラと揺らされながらも瑞希は何度も落ち着くように言って凛華はようやく手を離してくれたが、それでも瑞希は揺らされ続けたことで酔っているかのような感覚を覚え、吐きそうになって顔を青くしていた。
「ご、ごめん…」
「う、ううぅ…、吐きそう…。大丈夫、それじゃあ教えるね…?」
吐きそうと言いつつも近づいてくる瑞希に後ずさりをしそうな凛華だったが、自分のせいでこうなったのだから仕方ないと受け入れ彼女に教えを乞うた。
「ライトボール!」
それから更に1時間の経過で凛華は魔法を使えるようになった。彼女の掛け声とともに壁には黄色がかった白い光の球がぶつかり、瑞希ほどの威力はなかったが壁に穴をあけることができた。
瑞希による凛華への教え方に関しては、魔力操作の仕方を実際に彼女の体の魔力を通して瑞希が教えることで体に覚え込ませたのだ。
その際に魔力と気力を勝手に瑞希がグルグルと回したり、集めたりするので凛華はくすぐったく感じたり、もどかしい気持ちになって、発情しているというハプニングに見舞われたが何とか無事に魔力操作を教えることができたのだ。
そして、凛華は瑞希に同じことをやり返そうとしたが、凛華の魔力では瑞希の体に魔力を流し込むことはできず、魔力操作を教えることができなかった。
そのことから何か特別なスキルを覚えているかもしれないと思い、再び互いのスキルを確認してみると、瑞希にはあって凛華にはないスキルを覚えていた。
〈魔力操作〉…スキルレベルに応じて魔力の操作精度が上昇する
〈気力操作〉…スキルレベルに応じて気力の操作精度が上昇する
この2つは彼女たちが共通して新たに獲得したものだったが、瑞希には他にもスキルがあった
〈魔力譲渡〉…自身の魔力を媒介にして他者に魔力を分け与えることができる
〈魔力支配〉…自身の魔力を媒介にして魔力の操作権を支配できるようになる
※自身より魔力操作が低い者に限る
※自身より魔力が低いものに限る
〈気力譲渡〉…自身の気力を媒介にして他者に気力を分け与えることができる
〈気力支配〉…自身の気力を媒介にして気力の操作権を支配できるようになる
※自身より気力操作が低い者に限る
※自身より気力が低いものに限る
「多分のこの支配ってスキルが関係しているんだろうね」
「多分…」
「でも魔力はともかく、気力は私の方が上だよね?」
「うん…、だから多分だけど、同意も関係しているんじゃないかな? あの時は私が動かすよって言って凛ちゃんがいいよって言ってたから」
「なるほど、それなら納得かも」
2人は何でもないようにそんなことを話してはいるが、互いに内心ではかなりヤバイスキルを手に入れたのではないか汗がダラダラと垂れていたが、口には出さずに表面上何ともないように取り繕っていた。
そして、気を取り直すかのように数時間放置されたままであった金の宝箱を開けようという話になった。
「そろそろ最後の金の宝箱開けようか?」
「そうだね。でもどうしよう、さっきの銀の宝箱みたいに開けた人しか使えなかったら…」
「それなら一緒に開ければいいんだよ!」
凛華にそう言われて、瑞希もそれはそうかと思い2人で宝箱に手をかけた。
「せーのっ」
2人で宝箱を開けると中にはいくつかのものが入っていた。
――――――――――
〈偽装〉の頁
〈偽装〉スキルを習得できる
――――――――――
――――――――――
〈隠密〉の頁
〈隠密〉スキルを習得できる
――――――――――
――――――――――
忍びの靴
移動をするときの足音が無くなる。また、気力の消費で移動速度を最大で2倍にまで上昇させることができる。
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――――――――――
隠者のローブ
自身の気配を薄くすることができる。また、装備している者の魔法攻撃力・魔法防御力をわずかに上昇させる
――――――――――
この4つのものが入っていた。どれも隠したり潜んだりするような装備やスキルに関わるものだったが、それがこのダンジョンのテーマなのかと瑞希は思ったが、少なくともレッサーオーガや紫のゴブリンを考えるとその線はなさそうだと思えた。
「多分私たちに必要なものってことでこうなったんじゃない?」
「私たちに必要なもの…?」
「そうそう。私たちがダンジョン内でこれは隠さないと! って話をいっぱいしてたじゃん? だから、私たちが必要としたものがこの宝箱に入っていっていたのかなって」
「なるほど…」
瑞希も凛華の言ったその説が濃厚なのではないかと思ったが、2人にとってはそのあたりの検証は他の人がすればいいことなので、自分たちではこうかもしれないと考えるだけ考えて、宝箱の中身をどう分配するのかという話になった。
「とりあえず〈偽装〉は瑞希かな?」
「そうだね。そうなると、この〈隠密〉は凛ちゃんかな?」
「そうしようかな。私もスキル増やせると便利だし、少なくとも2人のままで探索をするなら私が隠密も使えれば斥候の役割もできるしね」
凛華はそう言うと〈隠密〉のスキル頁を手に取り、〈偽装〉のスキル頁を瑞希に手渡して2人で使用した。
〈偽装〉…自身のステータスを偽装することができる。また、自身の魔力や気配の痕跡を偽ることができる。このスキルレベル以下のスキルの効果を欺くこともできる。
〈隠密〉…スキルレベルの上昇に伴ってより気配を隠すことができる。また、音をスキルレベルに応じて消すことができるようになる
「多分だけど、この2つのスキルって私の刀スキルとかと同じで中位とか上位の少なくとも1段階以上進化したスキルだね」
「やっぱりそうだよね。なんとなく鑑定で見た結果だけでも他のスキルより効果が強いからそうかなって思った」
2人はそう話しているが実際にその通りだった。〈偽装〉は〈隠蔽〉スキルの進化系で、〈隠蔽〉も〈隠す〉と〈嘘〉のスキルの複合進化スキルで、〈偽装〉は上位スキルに当たる。
また、〈隠密〉も〈気配遮断〉と〈消音〉スキルの複合進化で、それぞれ〈影が薄い〉・〈静寂〉スキルの進化系で、かなり効果が高いのだ。
これらのスキルに共通しているのは最初の初期スキルが微妙なものほど複合進化によって化けるものであったり、強力なスキルに進化を遂げたりするものが多いのだ。
そんな強いスキルを2人は習得することができたのだが、現在報告をされているスキルの中に彼女たちのスキルは含まれていないので、今の彼女たちが知る由もないことだった。
それから2人は装備品についてもどうするか話し合ったが、忍びの靴と隠者のローブはそれぞれ凛華・瑞希向けの装備ではあるものの、彼女たちが今手に入れたスキルによってそのメリットの一部が失われてしまうので逆にした方がいいのではないかという話になった。
それから話し合った結果、これらを売ってお金に換えるという案もでたものの、今はまだダンジョン探索が始まって1カ月と少しが経過しただけでまだまだこういった装備品も貴重なので売ってしまうのは勿体ないということになり2人が装備をすることになった。
また、スキルを得たと言ってもまだスキルレベルも低いのだから完ぺきではない可能性もあるので、装備でそう言った部分を補填すればいいということで、忍びの靴は凛華が、隠者のローブは瑞希が身に着けることになった。
「あ、この靴はサイズが自動で調節されるみたい」
凛華は靴を履き替えると、最初はサイズも大きくブカブカしていたが、しっかりと紐で縛るとサイズがぴったりになったのだ。
「よかったね。私のこれも大きいかなって思ったけど、ほら、ちょうど手が出るところまでしか袖もないし、裾も引っ張らないでちょうどいい感じ」
瑞希もローブにそでを通すとサイズが自動で調節がされた。また、2人にはそれぞれの靴とローブの色をいくつかの中から選ぶことができる半透明なボードが現れており、その中から無難な色を選択した。
デフォルトでは忍びの靴は黒色だったが、凛華は、それはなんとなくお洒落ではないと思い、少し薄めの紺色を基調としたデザインに変えた。一方で瑞希は、ローブのデフォルトが薄灰色を基調としていて少々目立ちそうな色合いだったので、黒と一部に薄灰色が使われるローブに色合いを変えた。
「どういい感じかな?」
「うん、いいと思うよ? 私は、どう…、かな?」
「瑞希もいい感じだと思うよ。でもさっきの色合いでもよかったんじゃない?」
「私はもう少し地味で目立たないくらいでいいよ…。あまり目立つといろいろバレちゃいそうだし…」
瑞希はダンジョンを出てからのことを心配してそう言った。凛華もそれはそうかもしれないと思いつつも、きっとどちらにしろ目立つのだろうと思い、そのことを親友に伝えることにした。
「でもね、結局私たちは注目を集めちゃうと思うんだ。だって、女子高生がたった2人でダンジョンを攻略して脱出するんだよ? 委員会に報告をされて管理されているダンジョンと違って、情報もなければ装備もスキルもなかった2人が攻略をして脱出したなんて話題にならないはずがないよ」
「確かに…、そう言われるとそうかもしれないけど…」
「多分私たちはここを出てから委員会に連れて行かれて、このダンジョンのことや私たちのギフトやスキルについて調べようとしてくると思うんだ。日本もそんなにダンジョン攻略のレベルは低くはないけど、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の5か国に比べれば低いし、そこまで突出した成果もあげてないんだ。だから、今回の私たちを利用してイメージアップとか戦力として色々利用してくるかもしれないよ」
「そんな…」
「だからね、先に委員会の出方によってはどうするか決めてしまおうとも思うんだ」
「決めるって…?」
凛華の発言の意図がわからず瑞希は首を傾げた。
「委員会を信用できると思えば所属したり、いろいろ便宜を図ってもらったりして協力をする。そうでなければ、こちらから情報は与えるけどその後は関わらないようにする。こんなところかな?」
「え、でもそうしたら委員会から敵視されない?」
「そうなっても情報を持っているのはこっちだし、私たちより強い人たちが来ない限りはなんとかできると思うんだよね」
凛華はそこで言葉を区切ると、瑞希に近づいて彼女の目をじっと見つめた。
「り、凛ちゃん…?」
「こっちには瑞希って切り札がいるから。私がうまく話を進めるから瑞希は極力表に出ないようにして」
「う、うん、わかった」
凛華が今までとは違ったどこか危ないオーラを放ちながら言うので瑞希は不安そうにしたが、それでも凛華がこういうからには何か考えがあるのかもしれないと思い気圧されながらもなんとか返事をした。
「まぁ何かあれば私が瑞希を守るし、もしもの時は2人でどこかに雲隠れしちゃえば問題ないけどね」
凛華は現状ではどうしようもできないと思えば本気で実行をするつもりでいたが、ここではあくまで冗談であるかのように振る舞って瑞希を元気づけた。
瑞希は凛華が励ましてくれているのだろうと思いつつ、凛華と2人で逃げてもいいのではないかという気持ちもあった。それでも凛華の言ったとおり、ダンジョンを攻略して脱出をしたとなれば注目を集めるのは仕方がないことだというのは納得のできることだったので、それなら覚悟を決めるしかないと自分を奮い立たせて凛華に微笑みかけた。
「ありがとう。それなら、凛ちゃんと2人で頑張れるように私も頑張るね。もしもの時は本当に2人でどこかに行こうか。凛ちゃんとならどこでもやっていけるはずだもん」
「うん、任せて!」
2人はそうして笑い合うと長かった突発型ダンジョンの攻略を終えて、不思議な光を発していたダンジョンコアを瑞希の無限収納にしまい、壁の光の中へと歩いて行きダンジョンをあとにした。
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