第81話『首を挿げ替える』

やくもあやかし物語・81


『首を挿げ替える』    






 フィギュアは大きく分けて二種類あるんだよ。



 材質?


 うん、それもあるんだろうけど、それは知らない。


 動くのと、動かないの。


 わたしの持ってるのは動くフィギュア。


 あちこちに関節が入っていてね、自分の好きなポーズがとらせられるの。顔や手首も、表情の違うのが三つほど付いていて、その時その時の気分次第で換えられる。


 桐乃は、やっぱり腕組みしてプンプンしてるのがいいし、黒猫はジト目でブスッとしてるのがデフォルト。


「うんうん、いいわよね、こんな風に自由に怒ったり笑ったりジト目してみたり、とっても素敵」


「そういや、チカコは、ずっと笑顔ね」


「ああ、あははは……(^_^;)」




 話が横道に入っている。


 

 電話を切ってから「明日の服装どうする」って話になった。


 チカコは、まるでお雛様みたいな姿なんだ。


「それって、大変でしょ?」


「出かける時は手首に戻るわ」


 そうか、チカコは手首がデフォルトだった。


「う……でも、それって」


「あ、ちょっと不気味?」


「あはは……」


 万一、人に見られた時に手首ってのはね(^_^;)


 それで、他のフィギュアの服装を参考にしようってことになって、フィギュアを見てもらってるってわけ。


 手首にだって化けられるんだから、首から下の衣装を変えるなんて、お茶の子さいさいだろう。


「うん。このゴスロリさんがいいかなあ」


「あ、黒猫」


「体格が近いし、桐乃さんみたいに、いきなりミニスカというのもね」


「うん、それがいいかも(^▽^)」


 賛同してあげると、チカコは予想もしない行動に出た。




 スポン!




 なんと、自分の首を抜いたのだ!


 抜いた首を手に抱えて、瞬間迷ったんだけど、フィギュアの椅子に載せると、首のないまま黒猫に近寄って、自分にしたように首を抜いた。


「えと……」


 首のないままの体で、自分の首を黒猫の体に嵌める。


「……うん、やっぱりピッタリだわ」


 数秒で首は収まって、まるで最初から、自分の体であったように馴染んでしまった。


「じゃ、黒猫さんは、こっちね……」


 黒猫の首を、それまでのチカコの体に嵌める。


 残念ながら、チカコのように喋って動くということは無かったけど、ちょっと頬が染まったような気がした。




 そのまま通学カバンに入ったら、教科書に挟まれてペッタンコになりそうなので、使っていないペンケースの中に入ってもらうことにする。


 ファスナーを少し開けて、首が外に覗くようにもしてあげる。


 ホー へー ナルホドぉ


 学校に着くまでのあいだ、ずっと首を出して感心しきりのチカコ。


 ダミーに、マスコットのキーホルダーとかもぶら下げて、首を出しても簡単にはバレないようにしてあるので安心。


 校門に入る時、立ち番の先生のいつにない視線を感じて、ちょっと焦った。


 カバンにぶら下げたマスコットが、ちょっと不審なんだ。


 ダミーを含めて三つのマスコット。


 叱られるかなあ……と思ったけど、無事に通れた。


 たぶん、いつもはマスコットもキーホルダーも付けないわたしが、チャラチャラ三つも付けてるのが珍しかったんだ。




 放課後、すぐにお地蔵さんのところに行こうと思ったら、図書室当番だったことを思いだす。




「あ、インク切れた」


 図書カードの整理をしていた小桜さんが、ボールペンを投げ出した。


「あ、わたしの使って……」


 新刊図書に気を奪われていたわたしは、うっかり言ってしまった。


「サンキュ」


 小桜さんが、カバンを開ける気配がして『あ!?』っと思った。


 でも、遅かった。


「わ、五更瑠璃!?」


 小桜さんが、黒猫の本名を口にして驚いた(;'∀')!


 


☆ 主な登場人物


やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生

お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子

お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介

お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い

教頭先生

小出先生      図書部の先生

杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き

小桜さん       図書委員仲間

あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子


 

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