第48話『土筆を食べる・2』


やくもあやかし物語・48


『土筆を食べる・2』      






 はかまを取ってあく抜きするんだよ(^▽^)/




 まだまだ子どもなのに、えりかちゃんは土筆の料理法をよく知っていた。


 わたしってば、水洗いして、サッと湯通ししたらサラダみたいに食べられるんだと思ってたからビックリした。


 えりかちゃんはシンクの上にやっと首が出るくらいの背丈だから、調理のほとんどはわたしがやる。


 でも、指示を出すのはえりかちゃん。


「ハカマ取りをしっかりね」


 土筆には等間隔に腰蓑を逆さにしたようなのが付いてる。このハカマは硬くて食べられない。


「やだ、手が汚れるよ~」


 触っただけでアクみたいなのが指先にまとわりつく。スーパーで売ってる野菜しか知らないわたしにはひどく汚らしい。


「なに言ってんの、こういう手間もおいしさのうちなんだよ」


 のっけからお叱りを受ける、でも不愉快じゃない。


「さあ、水洗いと下ゆでするよ」


 ザルいっぱいの土筆をボールに移して水洗い、二回水を替えてジャブジャブ。


 ツルンとして、白っぽくなって食材らしくなる。


 それを大きめの鍋にお湯を沸かした中にザブッと入れる。




 ここが感動ものだ!




 パーーーっと傘のところが開いたかと思うと、お湯が鮮やかな緑色に染まる。


「なかなかじゃろ、こんなひょろ長くてなまっちろい体の中に、こんなに春の息吹を隠しておるんだからなあ🎵」


 お婆さんみたいな言い方は、えりかちゃん自身ウキウキしているからなんだ。


 二人は、なんだか仲良しの錬金術師みたくなってきた。


「この緑はな、傘の中に入っていた胞子が解き放たれるからじゃぞ、土筆自体春の息吹みたいだけど、この瞬間が、さらに春の偉大さを感じさせるのよ、ヌヒヒヒ……」


 スターウォーズのヨーダに孫娘がいたらこんな感じだろうと思った。


「やくもちゃんちは少人数だから、いろんな種類の土筆料理を作ろう!」


 たしかにザルいっぱいの土筆を単品の料理にすれば、美味しくても飽きるだろう。


 醤油バター炒め 佃煮 天ぷら サラダ オリーブオイル漬け


 アレヨアレヨと言う間に五品が揃った。


 たくさん作ったのは佃煮とオリーブオイル漬け。なんたって保存がきく。


 天ぷらは爺ちゃん婆ちゃんお母さんにもとっておき、熱々を二人でいただく。


「醤油バター炒めとサラダは置いとくとクターっとなっちゃうからね」


 三品を滞りなくいただく。


 


 すごいなあ、こんなチッコイのにこんなに色々知ってて。




 感心のしまくりなんだけど、口に出して誉めるというか感動を伝えるのは憚られた。


「さて、やっと気分がノッテきた♡」


 そう言うと、えりかちゃんはポケットから例の虹色のヘアピンを取り出した。


「つけてくれる?」


「うん、いいよ」


 前髪を軽く右に流してヘアピンを着けてあげる。えりかちゃんの髪からはお日様の香りがした。


「うん、かっこよくなった!」


 スカートをフリフリさせて喜ぶえりかちゃん。


「そうだ、写真に撮ろう!」


 スマホを出して、パシャリと一枚。


 よく撮れた!


 ……顔をあげると、えりかちゃんは居なくなっていた。




 台所のそこには、天窓から降りてきた春の陽だまりができていたよ……。


 


☆ 主な登場人物

•やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生

•お母さん      やくもとは血の繋がりは無い

•お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介

•お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い

•小出先生      図書部の先生

•杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き

•小桜さん      図書委員仲間

•あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け

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