第40話『お爺ちゃんの大掃除』


やくもあやかし物語・40


『お爺ちゃんの大掃除』     






 片づけばっかりやってると早死にしますよヽ(`Д´)ノ。



 片づけに熱中して、やっとお昼ご飯を食べに来たお爺ちゃんにプンスカ言うお婆ちゃん。


 お爺ちゃんも、なんとか切り上げてきたんだから、食卓に着いたとたんに言うことじゃないと思うんだけど。


 

 今日のお昼は、お婆ちゃんとわたしとで作ったカルボナーラ。


 お婆ちゃんは、わたしが手伝ったお昼ご飯に遅れたことを咎めているんだ。


 お婆ちゃんだけで作ったお昼なら、遅くなっても文句は言わない。ラップをかけてテーブルの上に置いておく。




 お爺ちゃんのお片づけも、わたしがお母さんといっしょにやったのに触発されたんだ。


 「ほう、感心感心、わしもやってみよう!」


 ねぎらいの言葉として聞いていたんだけど、ほんとにやりだして大掃除のようになってきた。


 広い家なので、そんなに気合いを入れてやることもないんだけどね。勢いというやつ。それと……これを言ったら言霊だから言わない。




 変わったこけしねえ。




 お爺ちゃんががんばったんだから、様子を見に行く。


 それで見つけたんだ、廊下に出されたいろいろの中に混じっていた太っちょのこけし。


「ああ、マトリョーシカっていうんだ」


「マトリョ……?」


「マトリョーシカ、ロシアのこけしだ」


 お爺ちゃんが手を伸ばすと、ホコリで滑ったのか、床に落っことしてしまった。


「あ……?」


 マトリョーシカはお腹の所で上下に割れて、中から一回り小さいマトリョーシカ、それも割れて二回り小さいマトリョーシカが顔を出した。


「入れ子になっていてね、全部で七つなんだ」


「触っていい?」


「ああ」


「……三つしかない」


 三つ目の中は空っぽだ。


「うん、どこかに行ってしまったんだ。普通のマトリョーシカは五つか多くても六つの入れ子なんだけど、こいつは七つ入っていたんだ」


「行方不明?」


「そうだな。薄汚れてるし、三つしかないから、値打ちなんかはない。次のゴミで出そうと思ってる」


「捨てるんだったら、もらってもいい?」


「ああ、いいよ。ちょっとアルコールで拭いてあげよう」




 そういうことで、マトリョーシカは、わたしの部屋、アノマロカリスを見下ろす棚の上に収まった。




 二つの新入りを眺めてるうちに寝てしまった。


「あんた、まだなにか隠してるんでしょ」


 マトリョーシカが文字通りの上から目線でアノマロカリスに言った。


「そんなデカイ図体しててメルル一個ってことはないでしょ!?」


「いや、それはな……」


 言葉のお尻を濁しながら、アノマロカリスはビー玉のような目を、わたしに向けた。


――あ、そうか!――


 アノマロカリスのお腹のヒダはメルルが入っていたところだけじゃない。




 目が覚めてから、アノマロカリスのお腹を探ってみた。




 すると、出てきた。桐乃、黒猫、あやせ、麻奈美、バジーナ、俺妹女子キャラの揃い踏みだ。


 先に出てきたメルル同様に少々歪んでる。十年近くアノマロカリスのお腹に閉じ込められていたんだから仕方がない。


 お腹の子を全部出して、心なしかホッとしたようなアノマロカリス。


 こういう時、無駄に大きいわたしの机は存在意義を増した。




 俺妹の女子キャラ全部を並べると、なかなかの眺めになった。




 プルルルル プルルルル




 黒電話が鳴った。


「もしもし」


―― 交換手です。俺妹の女子キャラの揃い踏み、おめでとうございます ――


「あ、ども」


 考えてみたら、発端は交換手さんの言葉だった。ま、おめでとうの電話くらいあってもいい。


―― フフ、まだ隠れているものがありますよ。出てきた子たちをよーく見てみましょう ――


 退屈させない交換手さんだ。




☆ 主な登場人物

•やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生

•お母さん      やくもとは血の繋がりは無い

•お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介

•お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い

•小出先生      図書部の先生

•杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き

•小桜さん      図書委員仲間

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