22日目
昨日、お嬢様と交わした会話の中にある疑問。簡単に脱出できないのを理解していて、態と脱出しようとする態度をとっているのではないか。と俺は考えたのだが。そうであったとしても疑問は残る。何故なら態と脱出しようとする理由は何なのか。それが見えてこないからだ。
何故疑問を覚えたかというと、もし脱走を手伝う人がいたとして。共に逃げて貰えるとするならばという仮定に対し。ただの1兵士である己が処罰されるかもしれないから断り、自分で脱出するとお嬢様が述べたからだ。残り10日も切って、何故外部からの助けを拒絶するのか。兵士1人、いや俺ともう1人を合わせれば2人なのだが。それが懸っているだけだ。それに、自惚れでなければあの時挙げた名前は俺だけ。つまり、俺が処刑されてしまう、処罰されてしまうから一緒に逃げようという人とは脱出できないと言っている。ここで矛盾が発生する。
何方にせよ。俺の目の前でお嬢様が1人脱出してしまえば当然俺が首と胴体泣き別れだ。その時の見張りが昼の見張りであるあいつであるなら、あいつも確定でそうなる。一応貴族の血はあいつの方は引いているらしいが、認知もないご落胤なので身分的には平民である。
そもそも、最初からおかしかったのだ。いや、最初は普通に脱出しようとしていたからおかしくはないかもしれない。ベッドシーツを裂いてロープを作っての脱出は本当に脱出しようとしていたのであろう。だが、スクワットやら鬘作成事変に関してはどうだろうか。寧ろポーズのようにもみえないか?諦めないというのは本当に脱出のことなのか、それとも。
彼女は何のために脱出を謀っているのか。自分の命なのか、それとも他から目をそらすため?だとしたら何にか。外部と連絡がまるでとれない北の塔。石畳の螺旋階段を上がった最上の場所に冷たい、お嬢様が閉じ込められる部屋がある。それこそ、誰かが訪ねてこない限り情報共有も情報のやりとりも難しい。或いはメイドにでも手紙を忍ばせて……とかならばありえるだろうが、睡眠薬入りの水を飲まされようとしたメイドと繋がりがあるのかといわれれば疑問しかなく、それも却下される。そもそも塔に入れられる前、南とは違い北の此処には着の身着のまま。身に着けたドレス以外高級品なしで王太子の命で幽閉されたのだから、懐柔や令のため与える装飾品も殆ど無いといっていいだろう。或いはメイドが絆されるかもしれないというのもあるかもしれないが、それも2人の会話に耳を欹てる限りでは何もない。メイドからの声掛けも、膳を持ってきたことや、下膳のこと。後は湯あみの際に背を擦りましょうか、位である。
「何考えてんですか。お嬢様は。」
あまりにも足りない情報。だが不可解さは日に日に増しているといってもいいだろう。少なくとも俺の頭では不可解の断片には手を伸ばし触れられても、その正体にまでは捕まえ暴けていないと自分でも理解している。
俺はうんうんと唸りながら、勤務の時間まで自分のベッドの上で今日も悩むこととなる。
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「ふっふーん。ふんふん。」
お嬢様は何を制作しているのだろう。自分のこの部屋に幽閉された時に着ていたドレスで。刃物はないので当然、加工することなどほぼ不可能なはずなのだが。よくよく見ると、頬かむりの様な形を作ろうと袖を結んだり等々している。昨日の今日で脱獄……目当てか?俺は訝しんだ。
「何をしているんですお嬢様。」
「ほわっほぉい!?な、何ですの急に。びっくりしましたわ。」
何ですのじゃない。その面白い驚き方こそ何ですのだ。俺は噴き出すのを何とか耐え、何を作っているのか聞いたところ。
「落下傘ですわ!」
「ラッカさん?」
まさか脱出の協力者の名前?いや、だが不審な人物は夜間に来たことはなかったはず。と首をひねっていれば、お嬢様は説明をし始めた。なるほどラッカさんという人物ではなく、遠い東の国に伝わる、降下用の道具を想像とともに作成中だと。どうやら以前書物で知ったらしい。なるほどなるほど。
「まず無理でしょう。どれだけ高さあると思ってるんですここ。最初の紐で降りるのも長さが絶対的に足りなかったでしょう。そもそもお嬢様の体重だと即落ちて死にますね?」
「体重に関しては此処に閉じ込められた時より痩せていると思いますわ!」
そりゃあ痩せているだろうけれど。毎日贅沢していたのであろうお貴族様が洗濯女と一緒位の貧相な食事が続いたなら。だがそういうこっちゃない。
「お嬢様、人間には骨というものがあると無学な俺でも知ってます。その骨自体の重さで、浮く前に垂直落下で肉塊、セルフ自分処刑になるでしょうね。それでいいのなら止めませんけど。」
「………………。」
お嬢様はその末路を想像したのか。そっと落下傘?にしようとしたらしいドレスの結び目をほどきにかかった。
その姿を見ながら俺は思う。貴女の目的はいったい、何なんだ?と。
本当に脱出なのか?……問いを投げるには、諦めないといい切った、真っすぐの瞳が脳裏によみがえって。俺の喉をひりつかせていた。
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