14日目
「ふんふーん、ふふんふーん♪」
今日のお嬢様は下手糞な鼻歌を歌いながら何かを作っている模様である。
よくよく見ると、最初に身に着けていた豪奢なドレスについていた円形の金属の飾りを取り外し、それにリボンを巻いているようだ。
それ、多分背中を留めるパーツではなかろうか。それを分解して彼女は大丈夫なのだろうか。いや、現在着ているものは薄汚れた簡素な白のドレスなので直接必要になる、となると処刑の日に着るくらいだが。
「……。」
俺はそっと見ないふりをした。ところ。ちらちらっと此方を見ていたお嬢様は、更に鼻歌を歌い始めた。これ絶対突っ込み待ちのやつだ!俺は屈しない。その無言の圧力には屈しない。
……20分後……。
「ふー、ふふ……ごっほえほっ……鼻いひゃい……。」
「何で鼻歌で鼻にダメージ受けてるんですかね……。」
鼻を抑えている侯爵令嬢に。俺はつい見かねて指摘をしたところ。涙目で睨まれた。多分八つ当たりだろうと思っていたところ。
「どうして!!早く声をかけてくれまひぇんの!」
「いや、あからさまにチラ見されていたらどこまでチラチラしようとするのか見たくなりませんか?」
「どえすですわ!!!どえすがいまげっほぉ!」
お嬢様は鼻が痛いらしく、鼻頭を抑えて転がっている。そろそろ本題に戻ったほうがいいだろうと、俺はどうどうと格子窓越しに手を広げて落ち着かせた。なんだか理不尽といったげな様子で、頬を膨らませたお嬢様は俺を睨み続けている。
「で、何してるんですか。幽閉ライフで突如オシャレに目覚め……。」
「ふふん!気づきまして?気づきまして!?」
いや、そりゃ明らかにこれに気づけとばかりに視線をちらちらしてたら気づくって。
俺は半ば突っ込みを放棄してお嬢様に続きを促した。
「私は考えましたのよ。力づくが駄目なら眠らせればいいじゃないと。」
「なるほど?」
「そこで取り出したのがこの金属の飾り。これって穴あき硬貨にそっくりでしょう?」
「似てますね。」
「これをこう、振って、ふって……あなたはだんだん眠く」
「なりませんからね。」
催眠というか睡眠導入させる気だったのかこのお嬢様。しかも振り方が下手すぎて左右ではなくその場でくるくる回っている。こういった遊びはしたことがないのだろう。俺のほうに近づいて下手な様子で即席催眠道具を振る彼女に手を伸ばし、ひょいっと道具をとりあげた。
「ああっ!!!」
ああっ!!じゃない。普通に考えて没収されるだろうこれ。
まぁ、その没収したものはあとで報告書とともに上のほうに提出するとして。
「いいですか、持ち方はこう。そして催眠術というのはこう、手首でゆらゆらと左右に揺らすんですよ。」
「ほうほう、へえええええ!知りませんでしたわ!こんな風にできるなんて。兵士あなた天才ですの?」
天才とかいう以前に、コツがあるだけである。何度かレクチャーしたところ、お嬢様も横にゆらゆらと即席催眠道具を揺らすことができるようになった。
だがそこ!できるようになったからといって早速俺で催眠しようとしない!!
「あなたはだんだん眠くなーる、眠くなって本音がぽろーり……。」
「しませんからね。」
お嬢様はぶーたれていた。あまりにも子供っぽかったもんだから、俺はいっそかかったふりをしてしまおうかと目を閉じて下手糞な芝居を打った。
「ぐーぐー。」
「や、やりましたわ!!!」
やりましたわ!!!じゃない。こんなに騙されやすくてこのお嬢様大丈夫か。俺は残り16日だが彼女の将来に不安になった。
俺を眠らせたはいいが、扉を開けられなければ無意味じゃないかなこの催眠。と思っていたところ……。
「いつも感謝してます。本当なのよ。
私、貴方の一言で。諦めないで精一杯抗ってみようと改めて決意できたのよ。」
一体何時のことなのか。王太子らが来た日のことだろうか。とは寝たふりをしているから聞けやしない。
お嬢様はそれを言い終えて、満足した様子でベッドに戻ってごろんごろんし始めた。おい脱走どうしたよ。と、俺は心の中で突っ込んだ。声に出したら起きているのがばれてしまうからである。
とはいえ流石に下手糞催眠は兎も角、目でも覚まさなければ職務を遂行できない。
ああでも、そうだな。
「……脱走したいと毎回いう癖に、”私を助けて”の一言もないあんたが。」
貴女がどや顔をしたり、すねた顔をしたり、笑ったり。そのたびに俺の胸を軋ませる。どうしても脱走したいってんならどうして、巻き込んでくれないんだろうなぁ。優しくて残酷なお嬢様。
「え?へっ?兵士!?!?」
「……すーすーぐーぐー。」
「な、なんですの!寝言ですの!?……もう。………もう。」
心臓に悪いですわ!!といいながらお嬢様のベッドでごろごろしている衣擦れの音が聞こえるのを耳にしながらも瞼は開かず。
俺がやっばい立ったまま寝てたのか!?と大根演技を披露するまであと、10分。
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