第74話 和平交渉
私は、久しぶりに帝都に戻ってきた。
この前来たときは、私の
「クランベール宰相閣下、ニーナ国務尚書、お待ちしておりました。私が、臨時政府首班のルーゴです」
老将軍は、元老院の前で私たちを出迎えてくれた。
あえて、格式ある話し方をしているのね。ルーゴ将軍は、お父様の古くからの友人で、何度も会ったことがあるもの。
彼は小さい頃は、優しく遊んでくれた大好きなおじ様よ。
「お久しぶりです。ルーゴ閣下」
私はあえてくだけたセリフをルーゴ将軍に使う。
「まさか、ニーナとこんな形で話すことになるとは、思わなかったよ」
ルーゴ将軍は、私たちを受け入れてくれた。
「私もです。おじさま」
私たちは、友好的な握手をした。
そして、元老院の会議室に案内される。ここが戦場ね。
「今回は、和平交渉ということでいいんだよね?」
「はい、閣下。我々は、本来、いがみ合う立場ではありません。この悲劇は、私利私欲のために策謀を張り巡らせた反逆者たちの陰謀から始まったものです。彼らを排除した今、私たちは争う理由はありません。我らオーラリア公国は、本来はグレア帝国の守護者として存在するべき立場ですから」
「今回の件でも、まさに国家乗っ取りを防いでくれた最強の盾だった。我々もあなたがたの動きにとても感謝している」
「恐縮です、閣下」
「さて、今後のことだが……」
「ルーゴ将軍も同じ意見だと思います。グレアとオーラリアの分裂は、仮想敵国であるヴォルフスブルクを利するだけになります。すみやかに国家再統合を目指すべきかと?」
「もちろんだ。だが、どちらが主導の統合になるか、とても難しい問題だ。国家規模で考えれば、グレア主導が望ましいが、我らは敗戦国だ。それでは、あなた方も納得しないでしょう。ならば、このまま戦争状態を維持して、オーラリアがグレア帝国を武力併合してしまえばいい。それが最もわかりやすい。すでに、我が帝国の兵力はほとんど失われている。武力併合を阻むものはない」
さすが、ルーゴ将軍ね。軍事的な見地で言えば、この意見が一番正しい。
でも、それでは本当の意味で統合とは言えない。
軍事力による無理やりの併合は、いろんな場所に
その
だから、フランツ様はそれを望まずに、和平という選択肢を望んだのよ。
だからこそ、私の腹案を通すしかないわ。
「なにか、考えがあるんだろう? オーラリアの賢人の意見が聞きたいな?」
試されているのね。私が、交渉相手としてふさわしいかどうか。
「ええ、閣下。もし可能であれば、閣下と私達、そして、皇帝陛下の4人で今後のことを協議できればと思います。陛下との面会は、叶いませんか?」
「残念ながら、陛下はまだ、療養中だ。キミとの交渉に参加できるほどの余裕は……」
やはり、陛下との面会は拒まれるか。
だけど、それではまとめることはできない。こうなったら、お父様やフランツ様の人脈を活用して、非公式の場でもいいから陛下と会見しなくてはいけないわ。
まだ、手段は残っているもの。
「どうしても、叶いませんか。これは、世界を変えてしまうかもしれない決断です。陛下にも聞いていただきたいのです」
私は、熱意をもって、彼に問いかけた。
「しかし……」
将軍は、言葉を詰まらせる。
部屋をノックする音が聞こえた。ひとりの老皇帝がゆっくりと部屋に入ってくる。
「よい、ルーゴ将軍。父親が、娘と会うのに、理由はいらないだろう?」
私たちの後ろから声が聞こえた。
懐かしい声。少しだけ、声量が小さくなっているけど、いつものように堂々としたものだったわ。
「陛下!」
「待たせな、ニーナ。さあ、交渉を始めよう。キミの考えを聞かせてくれるね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます