第59話 凱旋と悪女と皇太子の陰謀
巨大な魔獣を撃破して、数日が経ったわ。砦にはフランツ様率いる軍隊が、勝利の
避難民の人、守備兵、そして、遠征軍。たくさんの人たちが、自分たちの勝利を喜びあった。
その日の食事は、少しだけ豪華になったのよ。
食事の後、私たちは同じ部屋に戻ってきた。
「よくやってくれたね、ニーナ!」
「フランツ様……」
そして、私たちは再会したわ。たくさんの人たちが傷ついた戦いがやっと終わったのよ。
フランツ様率いる本隊は、ヴォルフスブルク軍と協力して、魔獣の発生源を叩いたわ。
複数の魔獣がうろついていたそうだけど、総力戦の末、ついに魔力の滞留場所を見つけて、封印魔法を
「誰がやったかは分からないけど、そこには魔力が滞留しやすくなるように、魔道具による細工がされていたんだよ」
「そんな……許せません。この魔獣騒動が、人為的に作られたものなんて!! いったい何人の人生を狂わせたんですか!」
私は強い口調でその細工の犯人を非難する。
この大混乱は仕組まれたテロ行為だったのかしら。ヴォルフスブルク帝国の反政府組織かしら、それとも――
「ヴォルフスブルク帝国側も、真相究明を約束してくれた。とりあえず、その調査結果を待つしかないね」
でも、これでもう新しい魔獣は発生しないはず。あとは残った魔獣を倒していけばいいわ。
私たちが倒した魔獣は、今まで現れた中でも最大クラスのものだったらしいわ。本当に倒せてよかった。
「大佐から聞いたよ。キミが皆をまとめて、あの巨大な魔獣を倒してくれたんだね」
「いえ、私はただみんなに助けられただけで――」
「そう
「ありがとうございます」
「もしかしたら、キミがここに来ることになったのは運命だったのかもしれないな。キミがこの危機的な状況の時に、辺境伯領にいてくれたのは、神様がくださったすてきなめぐりあわせだと思うよ。この砦が破られていたら、後方がどうなっていたか考えたくもない。辺境伯領を代表して、お礼を言いたい。これからも私を支えてくれ」
「もちろんです。全力を尽くしますわ」
でも、まだ終わりじゃないのよね。魔獣の
「まだ、しばらく、領都には戻れそうもないね。落ち着いたら、
珍しく弱気なセリフがフランツ様から聞こえてきて、私は少しだけ驚いたわ。
ずっと戦い続けていたんだから、あたりまえよね。
「ねぇ、フランツ様? この部屋にいるのは私達だけですよね?」
「うん、そうだね」
「そして、私たちは、お付き合いをしている」
「ちゃんと言われてると少しだけ恥ずかしいな」
フランツ様のことだから、ここまで言えば気づいてくれているはず。でも、私から直接言葉を聞きたいみたい。
そうよね、フランツ様は、私にずっと好意を示し続けてくれているけど、私からは恥ずかしがってうまく伝えられていないもの。
ここは、私が勇気を出す番。だって、彼は帝国の英雄なんだから……
その英雄が無事に帰ってきてくれたんだ。
私は、少しだけ深く空気を吸って、覚悟を決めたわ。
「あなたに、抱きついてもいい、ですか?」
言った、言ってしまった。胸は高鳴り続けて、私の体温は上がっていく。
「それは最高のご褒美だね。生きて帰って来れてよかったよ」
そう言って、帝国の英雄様は、私を迎え入れるために、腕を開いてくれた。
もう、言葉は必要ない。私は自分がしたいことをすればいいのよ。
ゆっくりと、私は彼に近づく。立派な体が少しずつ私のものになっていく。お互いの体温は、共有されていき、心臓の音すらも聞こえるくらい近づいている。
私は自分の体を彼にあずけた。
ゆっくりと彼の背中に、手をまきつける。
彼も私の腕の動きにこたえてくれる。私は、さらに腕に力を入れて彼の体を抱き寄せたわ。彼も、より力をこめてくれた。
少しだけ息が苦しいけど、幸せな時間だったわ。
たぶん、私はこうするために生まれてきたんだ。
「ずっと、ずっと、一緒にいてください。フランツお兄さん」
思わず昔の呼び方に戻してしまった。たぶん、私は親とハグする子供のように、安心しているんだと思う。
「もちろんだよ。キミは最高の女性だからね」
私たちは、しばらく自分たちのあたたかさを交換し続けた。
最高の時間は、いつか終わりを告げる。でも、まさか、こんなに早くその時間が無くなってしまうとは思っていなかったわ。
次の日の朝のことよ。帝都から大ニュースが届いたの。
「皇帝陛下、倒れる」
※
―帝都王宮―
「首尾は上々だ、メアリ」
「さすがですわ、お父様」
私たちは、策略がうまくいったことをほくそ笑む。
「最大の敵であるフランツは、魔獣掃討作戦で前線を離れることはできない。時間との勝負です。今のうちにすべてを
私はフィアンセに最後の決意をうながした。まだ、包帯にまかれて、寝ていることしかできない彼は、憎しみの炎を目にともして、力強く言った。
「ああ、たとえ、父殺しをしても、俺はフランツとニーナを許さない」
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