第39話 話し合い
そして、職人ギルドとの話し合いの場が
こちら側の参加者は、フランツ様と私、そして、辺境伯領の財務官僚、軍事担当者の4名。
私は議事録を取る仕事を任されたの。たしかに、規則では、行政担当者は外部との打ち合わせの場で議事録を取っておくことが望ましいとされるけど、実際にやっている人はほとんどいないはず。
だって、こういう場は
地方ではそういう腐敗は珍しくないのに、辺境伯領の規律は本当にしっかりしているわ。
たまに、お土産で差し入れのお菓子をもらうくらいね。
小説の中では箱の中にお金がびっしりということも聞くけど、クッキーしか入っていなかったわ。
「それでは、前回、お話が合った武器の規格の統一についてですが……」
ギルドの代表者が重々しく口を開いたわ。
「やはり、職人たちの反発も強いです。自分たちの技術力を、統一されるというのが、職人気質に合わないというのが主な意見で……」
ですよね。私も予想していた通りね。でも、あの後、私たちもこういう返答が来た場合に備えて、いろいろと話し合っているの。助成金を出す担当部署にも話を通してあるし、軍事担当者も是非とも規格の統一をしたいと声高だったわ。
「それは、わかります。私たちも、高い技術力を持った職人の方々が、領内にいるというのは誇りです」
フランツ様は、職人たちのプライドをゆさぶる。とても言葉に注意して、ゆっくり話しているわね。
「ありがとうございます」
ギルドも嬉しそうね。
「そこで、私たちからの提案ですが……」
フランツ様もお仕事モードで一歩も引かない。
「交渉とは、常にお互いの妥協点を見つけることだ」と私は、皇太子様の婚約者時代に教えてもらったわ。
だから、私が提案したの。お互いに利益が出る妥協点を見つければいいじゃないですかって!
「規格を統一するのは、魔力銃と魔力砲だけではどうでしょうか? このふたつは、戦場で本当に壊れやすいのです。この武器の故障は、そのまま兵士の生命の危機にもつながります」
まず、範囲を限定すること。行政側で、あらゆる範囲に規制を押し込んでも失敗してしまうわ。だから、本当に必要なものに限定するのがテクニック。最初に、すべての武器の規格の統一という大きなメッセージを見せたから、これならギルド協会側にも小さく見えるはずよ。
「ううむ、たしかにそれだけなら……」
これで交渉相手にも迷いが生じるわ。
「さらに、契約に応じてもらった職人の方々には、辺境伯領陸軍から助成金を出させていただきます。また、作っていただいた部品についても、陸軍が年間契約し、決まった数を購入させていただくことにします。これなら、職人の方々は、毎年定額の安定的な収入を、こちらも良質な部品をそれぞれ確保できますが、どうでしょうか?」
自営業の人には、安定的な収入源というのはとても魅力的だと聞くわ。領内の産業の育成もできるので、とても効果的な経済政策になるはず……
「わかりました。それでは、細かい要望や契約金額については、次の打ち合わせまでに職人たちとすり合わせをさせてください」
「ありがとうございます」
こうして、フランツ様とギルドの代表者は握手をしたわ。ひとまず、大筋合意ね。交渉が一気に進むわ。
私たち参加者は、その握手の様子を見ながら、満足げに笑い合った。
※
そして、打ち合わせの後、私とフランツ様は執務室でお茶を飲みながら休憩する。
「さすがだね、ニーナ。キミの発言をヒントに、一気に大筋合意までこぎつげることができたよ」
「いえ、ほとんどフランツ様の発言に少しだけ追加しただけですわ。私の役割なんてほとんどありませんでしたよ」
「それは違うよ。キミは僕の原案をより現実的かつ魅力的なものに、進化させてくれたんだよ。そういうことができるのは、キミしかいなかった。財務担当官も軍事担当官も舌を巻いていたよ。さすがは、才女として呼び名が高いニーナ公爵令嬢とね」
「ありがとうございます」
「これで、より辺境伯領の防備は強くなる。キミの補佐官としての才能はとても高いよ。これからも頼りにしているからね。それと、ええと……」
なにかを話したそうなフランツ様……
私が首を横に傾けていると――
「今回のお礼に食事でもどうかな?」
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