第27話 実家への帰路

 皇帝陛下との面会も終わり、私たちは王宮を後にしたわ。

 さすがにいろんなことがありすぎたから、疲れた。でも、とりあえず、辺境伯領での生活は続けていけることになったのが本当に嬉しいわ。あそこが、私の生きる場所だと本当に思っているから……


 それに、一応は罪を許されたわけだし、これで堂々と仕事ができるわ。みんな優しいから触れないでいてくれたけど、気を使われているのがわかったから……


 とはいっても、身分差を気にする人も多いし、まだまだ頑張らないとね。私を公爵令嬢としての立場としてではなく、ニーナというひとりの人間としてみてもらえるように頑張るわ。


「それじゃあ、帰る前に、公爵家に寄っていこうか? 皇帝陛下からも説明してくれるそうだけど、僕もきちんと挨拶あいさつしておきたいからね」


「挨拶ですか!」

 その言葉に、ドキリとしてしまう。まさか……求婚? なんて一瞬、変なことを考えてしまったけど、それはないわね。きっと、辺境伯領で働くことになったから、その挨拶のことよ。


 まったく、私も都合がいい思考をしている。いくら罪を許されたからって、私の立場は未亡人のようなものよ。将来を嘱望しょくぼうされているフランツ様の伴侶はんりょとしてふさわしくないもの!


「ああ、今後、ニーナがうちで頑張ってくれるから、お父上にもしっかり挨拶しておきたいんだよ。ずっと心配していただろうから、ニーナの顔を見せてもあげたいしね」


「ありがとうございます」


「なに、公爵は、私にとってもに恩人だからね。少しは恩返ししなくちゃいけないんだ」


 そういうところですよ。誠実で、絶対に人を裏切らないところ。

 本当に素敵な人だ。権謀術数の政治の世界で生きているはずなのに、フランツ様の周囲には笑顔があふれている。それはきっと、彼の人柄だからできることなのよね。


 人を信用して、誰であろうと誠実に対応していく。彼の仕事を最も近くで見ているからこそ、よくわかるわ。彼は、周囲の人たちを簡単に味方にしてしまう不思議な魅力にあふれている。


「そういえば、フランツ様。陛下と最後に、どんなお話をしたんですか?」

 面会の最後に、人払いをして、陛下とフランツ様はふたりきりで密談をしていた。そんな対応するくらいだから、とても重要なことを話し合ったんだろうな。


「ああ、最近は魔物が増えてきているから、領土の防衛をしっかりしてほしいと頼まれたんだよ」


 そう言って、私が心配しないように、頭を優しくなでてくれた。

 彼の手のぬくもりがゆっくりと私の頭に伝わってくる。


 そして、ゆっくりと髪をなでる手が、とても心地よい。

 マリアが『お兄様に、頭をなでられると落ち着く』といつも言っていたけど、よくわかるわ。彼の優しさが、手を通して、私に伝わってくる。


 この時間がずっとずっと続くことを、私は願う。

 馬車は、ゆっくりと進んでいく。

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