第11話 パパと娘の1日目(3)
いつもの職場である本屋さんに到着した。
店内に入ると、既に店長である山下隆一の姿が見えた。
龍一「朝倉さん、おはようございます!」
心美「店長、おはようございます!」
龍一は、しばし私の顔を見つめた後、こう言った。
龍一「あれ?朝倉さん、今日はいつもと全然印象が違いますね!」
心美「実はメイクをいつもと変えてみたんですよ…!」
まさか
(父がメイクしてくれたんです!)
…なんて言えるはずもなく、私は当たり障りの無い言葉で返した。
龍一「そうだったんですね!僕は男なのでそういった事には疎いんですが、今日のメイク、朝倉さんに似合ってると思います!」
店長は、あどけない爽やかな笑顔でそう言った。
(この爽やかな笑顔に胸キュンしない女性は居ないだろうなぁ~。こんな女性が喜びそうな言葉をサラッと言えちゃうのがスゴイ…!)
南「朝倉さん、おはよう!」
そんな事を思っていると、同じ本屋さんで働く従業員の高原 南さんが声をかけてきた。
高原さんは、私より6つ年上の35歳で、キレイめなお姉さんである。
ちなみに、高原さんも結婚はまだだが、見れば見るほど店長とお似合いだと、いつも感じる。
心美「あ!高原さん、おはようございます!」
高原さんは、店長の事が好きらしく、既にその事を高原さん本人から聞かされているので、私は先程の店長とのやり取りを高原さんに見られていなかったか、少し気にしつつ、挨拶をした。
南「見たわよ~!朝倉さん、朝から店長にメイク褒めてもらえて良いなぁ~。しかも、本当に今日のメイク似合ってて素敵♡どうしたの?」
案の定、店長とのやり取りを目撃されていたようで、私は意味も無くドキドキしてしまった。
心美「あ…。ちょっとメイクを変えてみたんです!店長は優しいので、社交辞令で褒めて下さっただけですよ!」
南「いつも朝倉さん、あまりメイクとかして来ないのに、どういう心境の変化~?まさか、好きな人でもできたの?♡」
心美「いや…。そういう訳じゃなくて、気分ですよ!気分!」
私は曖昧に言葉を濁しながら、高原さんに返事を返した。
実は私は店長の事が好きだったが、高原さんが店長の事を好きだと知ってしまい、その瞬間から自分の恋を叶える事を諦めてしまったのだ…。
昔から私は、自分の欲しいものが手に入らないと分かると、行動を起こす前に諦めてしまう癖がある。
それが自分のダメな所である事は、自分自身でも理解しているつもりだが、特に恋愛に対して奥手な私は、ライバルが出現するとすぐに物怖じしてしまうのだ…。
そんな私からすれば、店長や高原さんのような人達は、自分とは住む世界が違うだとか、高嶺の花だと思ってしまう。
キラキラしている2人を見ていると、自分は場違いだと感じてしまうのだ。
だからこそ、店長に対するこの気持ちを、私の心の奥深くにそっと閉まっておく事で、自分自身が傷付く事から守っている…。
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