第12話夢と現実の狭間
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本編。
明日の予定時間等を決めて、リガルが外に出た頃には、既に暗くなっていた。
客人に飲み物を用意しないでと、自分で格好つけたのに情けない。と、咎めつつお詫びも込めて、ファルルで人気の串焼き(牛の赤身を焼いたやつ)も飲み物と一緒に買った。
何故かいつもより、遠慮気味に扉を開けて玄関に入る。
「ああ、そうだよ、な」
電気のスイッチがある場所も、付け方も、教えていかなかった為に部屋は暗い。どうにか、街明かりが窓から射し込んではいるが、薄暗い事には変わりがなかった。
申し訳ないと心で謝りつつ──
リガルは物音一つしないのもあり、靴(皮のブーツ)をゆっくりと脱いで、室内へ静に入った。床鳴りが歩く度に響く。いつもは気にならないのに、今日はとても気まずい。
小さい机に、串焼きの入った紙袋と飲み物の入った紙袋を静かに置いてベッドを見た。
「すぴーすぴー」
──寝てるようだ。
しかもうつ伏せで、尻尾も手も足も伸びきっている。獣人は全員こんな。言うなれば、毛皮の絨毯みたいな寝かたをする生き物なのだろうか。
部屋には何もないし、退屈で寝てしまうのが普通だろう。
リガルはとりあえず、椅子にゆっくり座った。背もたれがない為、壁に寄りかかり、天井を見上げ目を瞑る。
アルルとの接し方を考えていた。
いや、しかし。と、赤い髪をポリポリかいて「はぁ」と溜息が無情に鼓膜を叩く。
室内には、アルルの穏やかな寝息と外の活気溢れる音が入り混じっている。
両親が居ない辛さなら、リガル自身も経験しており、話せる内容もあるかもしれない。しかし、アルルの場合は帰るべき土地、故郷自体がないのだ。居場所がないのだ。
いくら頭をフル回転させても、皆目見当もつかない。
──いるべき国。在るべき国。
閉鎖的、誰にも危害を加えず静かに暮らしていた獣人が、魔族だか人間だかに、全てを奪われた。今の世の中は、ミューレも言っていたが本当に腐っているのかもしれない。人ではなく国自体が。
国が腐っているから、人も腐る。
「俺がもし、国を作れたのなら……」
全てを壊し、全てをやり直したい。なんて、夢物語で現実逃避をして導き出した答えは──
アルルから教えてくれるまで。もしくは、リガルを嫌になり出ていくと言うまでは、一緒にいるという事だった。
逃げではあるが駄目ではたいだろう。リガルは、そう思う事にした。無理やりに思い込む事にした。
「疲れたな……」
色々と今日はありすぎた。アルルの寝息が、誰かと一緒に居る安堵感を与える。リガルは徐々に朦朧とし始めた意識に身を委ねた。
「やあやあ~久しぶりだね~」
全てを馬鹿にしたような声がして、リガルは暗闇の中で口を開いた(感覚的に)。
「アナタは、何故ここに」
「何故ここにって。オイラは、君の中に居るからね~ぇ。にしても、やはりオイラの見込んだ通りだったよ」
「何がですか?」と、リガルは戯ける声に単調な問で返す。この間、一つの違和感を覚えた。それは、過去に接した物とはまた違う物──つまり、個性。
もしかしたら、嫌なことが重なったが故の夢なのかもしれない。無理やりに思い込もうとしたが、流石に無理があった。
暗い空間だが夢ではないだろう。自我がここまであるのだから。不思議な感覚ではあるが、目覚める事も、夢に入る事も出来そうにない。
つまり此処は、リガルのどこかにある黒いナニカが住み着いている場所なんだと、思い至る。
「君は、自分が許せない相手には容赦しない。殺す事も苦しめる事も厭わない。けど~同時に優しさもあるよねっ。実に人間らしい素直さであって、愉快痛快だと思うんだ~」
「別に優しくなんか」
「優しいじゃないか。今もその獣人の事で悩んでいるじゃん?」
「…………」
「殺しちゃえばいいのに~」
罪悪感も悪気も何も感じない嫌な声だ。
「殺せるはず」
「いや、殺せるでしょ。君には人を簡単に殺せるだけの──力はあるのだから。オイラだったら、速攻殺っちゃうね~」
「…………」
「国もない、仲間も居るか分からない。生きてるのが可哀想だとは思わないかい? オイラは可哀想だと思うなあ~」
「思ってないですよね?」
「あはっ。バレバレかあ。まあオイラは、か弱い獣人が信用した男に裏切られ、苦しみ恨み悲しみ死ぬ姿が見たいだけなんだけどッ」
「巫山戯るな!! 俺は──罪のない人を!!」
「あはっ! そ~んな怒らないでよっ! まあさ、オイラは思ったわけさ! 君が考えたように造っちゃいなよ」
「何をですか?」
「国をッ! そうすれば、オイラは楽しめるしさッ!!」
「国? ですか。それこそ無謀な話ですよ」
「無謀なんかじゃないさ! ほら、あるだろ? 居るだろ? 君の身近に滅んだ国が、全てを失った者がさ!」
「巫山戯るなって!! お前、人の痛みがわかんねぇのか!?」
「人の痛み? 痛みが分から、いいや。ともあれオイラは君が進む道を楽しむさ! ほら、お呼びみたいだよッ」
その言葉の直後、瞼が電気が通ったかのようにピクリと痙攣したのを感じた。薄らと、ゆっくりと瞼を持ち上げると、目の前にアルルが居る。
「だ、駄目でですよ。勝手に膝の上に載ったら! 目が覚めちゃいます」
小声で、立膝をついたアルルは膝に載ったファイアースライムに注意をしているようだ(暖かさから、のっていると推測)。
「ファルファル?」と、声が聞こえると、苦悩してるようなアルルの声が静かに響いた。
「むぅ~。た、確かに、あ、頭とか撫でられたいですけど、それはだめですよっ」
「なんだ? アルルはスライムの言葉が分かるのか?」
眠たげな声を出してリガルが問うと、ビックリしたのか耳や尻尾をピンとおったてた。毛は逆撫でしたかのようにピンと立っている。
「ひゃっ!」と、短いアルルの声が部屋に響いた。リガルは、何故だろうか。妹が居たならこんな気持ちになるのだろうか。
自然と腕が動き、手が頭の上にのっかった。
「腹減っただろ? 飯を食べよう」
【毎日更新】仲間に騙され死にかけた元白魔道士は、取得した固有付与魔法【限界突破】で最強軍団を作る~腐りきった世界に宣戦布告~ みなみなと @minaminato01
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