第10話 情に脆い俺は、昨日喧嘩売ってきた奴の話もちゃんと聞いてやりました。
「あ、あのー……」
宴から一夜明けた昼頃、目覚めたばかりの俺たちの前に、昨日のロケット花火のオッサンがやってきた。
「おう、昨日のオッサンじゃねーか。もうら悪りぃことすんじゃねーぞ?」
「は、はひぃ! それはもちろん!」
直立不動で叫ぶオッサン。
……んなビビんなくてもなぁ。まるで俺が悪者みてーじゃねーかよ。
「ならよし! もう行っていいぞ」
俺が手をひらひらしてもオッサンはどっか行かずにこっちを見てやがる。
「……なんだよ?」
「あ、あの、昨日あんなことをしてしまったのに図々しいとは思うのですが……」
「そう思うんなら言うんじゃねぇよ。時にはカッコつけんことも大事なんだぜ? オッサンよぉ」
俺がカッコいいことをビシッと言ってやると、オッサンは苦笑いを浮かべる。なんなんだよ失礼なおっさんだな。
「そ、それはわかってはいるのですが、話だけでも聞いてはくれませんか?」
そう言うオッサンの顔はなんだか切羽詰まった感じだ。
……ったくよー、んな顔されたら聞くしかねーじやわねーか。俺っていい奴だからよ?
「ふん、これだから人間風情は……、主人よ、聞くことはないぞ」
と、そこで横からケーちゃんが心配そうに覗き込んでくる。
確かに俺ってやつぁお人好しだからよ? ケーちゃんが心配してくれんのはわかるし、気持ちは嬉しいよ。
「まぁまぁまぁ、大丈夫だからよ?」
言いながらケーちゃんに待て待てと手を突き出す。
悪りぃな、こればっかしは性分なんだよなぁ。
「……しゃーねーなぁ、話してみな」
言うとオッサンはぱぁと顔を輝かせる。全く現金な奴だ。
「はい! ありがとう! ……えーっと実は我々の住む“サタデナイの村”は、魔王親衛隊1番隊の配下にあたる地域でして」
「なるほど」
魔王は知ってるぞ、なんかツノ生えた偉い奴だろ? 顔が紫色で杖からビーム出す怖ぇ奴。
んな怖くてキモいヤローの親衛隊なんて、変な奴らもいたもんだ。
「……それでそのー、我々、親衛隊から毎月貢物を大量に要求されてまして」
「ん? なんだ? それって困んのか?」
「我々の村は稲作を中心に行なっているのですが、他の街への出荷分はおろか、この調子だと自分たちの分まで……」
「んーっと?」
なんだかよくわからなくなってきた俺はケーちゃんに視線をよこす。
「……要するに、魔王親衛隊に食料を巻き上げられて食うに困ってるから助けろという話だ。昨日はあれだけのことをしておきながらそんな虫の音いい……」
「おし、任せろ!」
「……は?」
俺の力強い返答にケーちゃんはギョッとして俺を見る。
「……悪りぃなケーちゃん、別に昨日の敵は今日のなんたらってわけでもねーけどよ? 俺ぁ困ってん奴ぁほっとけねー性分なんだよ」
「……しかしこいつらはだな」
「わかんよ? ケーちゃんの言いてーこと」
「けどよ? たとえそいつがヤな奴だとしてもよ? 飯食えなきゃ死んじゃうだろ? 昨日会ったやつがさ? 喧嘩売ってきてムカついた奴がさ? 死んじまったら、なんかやだろ?」
「し、しかしそれくらいのことでそんな危険に身を晒さなくてもだな」
「ま、ケーちゃんはついてこなくていーからよここで待っててくれよ?」
「……どうしても行くのか?」
じっと見つめてくるケーちゃんに俺は強くうなづき返す。
「ったりめえだ!」
「……ふっ、ならばしかたない、どこまでもついていこう」
ケーちゃんってマジでいいやつだよな。
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