第4話 懐かしい匂い1
――私はどうして、ここにいるんだろう。
囲炉裏で爆ぜる火を見つめながら、トウカはぼんやりとした。
「トウカ、お茶を淹れたわ。外は寒かったでしょう」
湯飲みを手渡して微笑むのは、懐かしくて大好きな祖母だ。何度見たって、祖母であることに変わりはない。幻でも記憶でもないのだ。
――ここは、人の世だ。私は帰ってきたんだ。
トウカは誰に言われるでもなく理解した。
雪の降る中、季節を越えて再会した祖母は、なにも言えずにいるトウカを連れて帰った。
「可愛いわんちゃんね」
祖母はそう言って、ポチの頭を撫でる。ヨシノはトウカに張り付いて、部屋の様子を見渡していた。祖母はまじない師なのだから、ポチとヨシノがあやかしであることにも気づいているのだろうが、なにも聞かなかった。
トウカは部屋の中を見渡す。座布団、箪笥、一輪挿し、戸の木目、炎の揺らめき、埃とお香の匂い――、そのどれもが、トウカの記憶と違わなかった。
祖母の家だ。体のすべてでそう実感してしまう。
ずっと帰りたかった場所。こうして祖母に会うことを望んでいた。帰ってこられたことは嬉しい――。嬉しい、はずなのだ。
そのはずなのに。
「トウカ?」
トウカは祖母の呼びかけにも反応ができず、うつむき続けた。
ウツギ、と心の中で彼の名を呼ぶ。心は不安と焦りで満たされていた。
――どうして、私は。
ウツギを置いて、人の世に帰ってきてしまった。タンゲツを取り戻すと約束したのに。一人で、勝手に帰ってきてしまった――。あんなに帰りたかったはずなのに、心が苦しい。
「あら、あの子も帰ってきたみたいね」
ふと祖母が顔を上げた。立ち上がって戸を開けると、雪を頭にのせた狐が戸の隙間から身を滑りこませた。祖母の式神だ。
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