第2話 望むものは1

「ウツギは――、これからどうしたいの? タンゲツのことを取り戻したい?」


 ヒバリはもういない。自分に今できることは、ウツギとタンゲツを救うことだけだ。トウカはその思いに急かされて、早口で続けた。


「ウツギが私を消そうとしたことを、責める気なんてない。私がウツギの立場だったら、きっと同じことをする。だから、ウツギが望むんだったら、私の体はタンゲツにあげても――」

「それは駄目だ」


 鋭い声でウツギが言った。トウカはその声に驚いたが、ウツギ自身も目を丸めている。やがて、視線を落として小さく呟いた。


「最初は、本当にそのつもりだったんだ。トウカが消えたって構わないって。でも今は――、お前には今のトウカとしての人生があるだろう。それを、俺なんかが邪魔していいとは思えないんだ。祖母のもとに帰るんだろう。お前は、こんなところで消えていい人間じゃない」

「あ」


 ――そうだ、おばあちゃん。


 祖母の顔が浮かんだ。自分がこのまま消えてしまえば、祖母にはもう会えない。祖母を一人にしてしまう。あんなに優しくしてくれたのに、なにも言えないまま消えてしまうなんて、それは嫌だ。

 ウツギは弱弱しい笑みを浮かべた。


「だから、いいんだ。トウカはトウカの人生を生きればいい。もともと、タンゲツはあのとき死んでいたんだから――。トウカがこのまま人の世に戻れば、すべて今まで通りだ。今のトウカなら、まだ普通の人間として生きていける」

「じゃあ、ウツギくんはタンゲツちゃんのことを諦めてしまうのかい? せっかくここまでお膳立てしてあげたのに」


 シラバミは唇をとがらせた。


「悪いバミさん。でも俺は――やっぱり、今のトウカを殺すなんてできそうにない」


 このままトウカが人の世に帰れば、丸く収まる。ウツギは今まで通りに一人で生きていくのだろう。トウカが祖母と穏やかに過ごす間、ウツギは一人で――。

 トウカはそこまで考えて、「駄目」と声を上げた。

 今まで長い時を孤独に過ごしてきたウツギを、また一人きりにするなんてできない。思い出してしまったのだから、もう今まで通りに過ごすなんて不可能だ。

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