第5話 決意1
トウカはウツギの部屋を訪ねた。向かい合って座る。ウツギはやはりやつれた顔をしていた。
「あの鳥のあやかしなんだけど」
ウツギが反応するのが分かった。トウカは瞳を閉じる。今でも、鳥のあやかしを思い出す度に、胸が痛む。そんな自分のことがよく分からなかった。あのあやかしのなにが、トウカにそうさせるのだろう。
だが、分からないなりにも、自分がしたいことは明白だった。
トウカは息を吸う。
「鳥のあやかしが、あのとき私に言ったの。自分を、殺してくれって。あの子、泣いていた」
「そうか。――あの呪いは苦しいだろうからな。それなら、早く殺しに行ってやらないと」
「ううん」
トウカは首を振る。そして、ウツギを見つめた。
「殺さないでほしい」
そう言うと、ウツギが驚愕の色を瞳に浮かべた。
「あの子を殺さないで。助けてあげたいの、あの呪いから」
「お前、なにを言っているんだ」
ウツギは怒っているような、泣き出しそうな、不思議な顔をした。鳥のあやかしに出会ってから、ウツギの様子はおかしい。いつも冷静な瞳がずっと揺らいでいる。
「襲われたくせに、どうしてそんなことが言えるんだ。あいつは危険なんだ。お前だって、俺が助けに入らなければ呪いに侵されて死んでいただろう」
「違う。あの子は私を殺そうとはしてなかった」
トウカがあのあやかしに手を伸ばしたとき、彼は逃げるようにトウカから離れたのだ。そのあとも、近づきこそすれトウカに触れようとはしなかった。触れてしまえば、トウカが死んでしまうことを知っていたからだと思う。
「どうしても、殺したくないの。あんなに悲しそうに泣く子を殺すなんてできない。それに、ウツギだって――同じでしょう。昔馴染みだったあのあやかしを殺すなんてできない。違う?」
ウツギは押し黙る。トウカは着物の袂から風呂敷を取り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます