第9話 花が咲く3
アオヒメの周囲には数々の贈りものが積み重なっていた。彼女はその山に視線を走らせて、近くの木箱を指し示す。小間使いの少女が木箱を手に取り開けると、中に入っていた茶器を取りだした。美しい椿の絵付けがされた茶器を撫でるアオヒメに、どこからか「ふぉっふぉっ」と高い笑い声がする。
そのあともアオヒメはいくつかの贈りものを手に取って確かめていく。その度に群集からは誇らしそうな声が漏れた。贈り主の声なのだろう。
「アサヒの贈った簪も、見つけてくれるかな」
「それはないと思う。ああやって披露するのは上得意のあやかしから贈られたものだけだから。すべて確かめていたんじゃ時間がいくらあっても足りないよ。いつも来てくれる得意の客を満足させるために、こうして披露目の場で手に取っているんだ」
「そっか――。商売なんだから仕方ないんだろうけど、寂しいね」
「仕方ないさ。でもこの場で受け取ってもらえなくても、あとできっとアオイに渡してもらえるはずだから。それでいいんだ」
アサヒは目を伏せて笑った。
それを見たシラバミはふむと頷き、顎に手を添える。またなにか厄介なことを考えているらしい。案の定、
「せっかくだから、優しいお兄さんがすこしだけ手助けしてあげよう」
そう言ってシラバミは目を細めた。人差し指を唇にあてて「内緒だよ」と微笑む。彼の着物の袖からするすると腕を伝って蛇が現れた。シラバミがその蛇の頭を撫でると、ちろりと舌を出して腕を離れて地に落ちる。
蛇はあやかしの群集の中へと消えていき、すぐに見えなくなった。
「なにをするの?」
「すぐ分かるよ」
シラバミは妖しい笑みを浮かべる。
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