第2話 たまゆら堂2

「いやはや――、さすがはアオヒメよ。最近めきめきと美しさに拍車をかけている。よきかなよきかな」


 のんびりとした声が聞こえた。

 金の髪のなよなよした男が扇を口元にあてて笑っている。着物にも金の刺繡が施されており、装飾もうるさいくらいに主張していた。男は得意げに笑うと、お供のものを連れてたまゆら堂の中へと入っていった。


 あやかしたちは熱に浮かされたように三階を見つめていたが、やがてばらばらと夢見心地の顔をしたまま散っていく。


「私より幼く見えたのに、大人っぽくて綺麗だった。すごいね、あの子」

「見た目は幼くとも、トウカよりずっと長く生きているからな。あやかしの歳なんて見た目で判断できないものだ」


 トウカも例にもれずぼんやりとしていると、道の先から「おや」と声がした。黒い狼のような出で立ちで着物をまとったあやかしが歩いてくる。目深にかぶった帽子から鋭い目がのぞいた。


「ウツギ殿ではないか。ここで会うのは珍しい」

「ああ、マガミか。お前も来ていたんだな。この前は悪かった、せっかく家にまで訪ねてくれたのに追い返すような真似をして」

「いやいや、こちらも突然押しかけてしまったから申し訳なく思っていた。今日はそちらの女子おなごも一緒なのだな」

「こいつは夜長の市がはじめてだから、案内をしているんだ」


 狼のあやかし、マガミはトウカを見る。まだトウカがウツギの家に引きこもっていたときに訪ねてきたあやかしだった。


「ここは賑やかだろう。楽しんでいるか?」


 トウカが戸惑いながら頷くと、そうかそうかとマガミは笑い声を上げた。

 ウツギとマガミはそれから立ち話を始めてしまって、手持ち無沙汰になったトウカは道の端に身を寄せた。頭の上ではすっかりポチが寝息を立てている。ぬくぬくとした重みを頭に感じながら、トウカはさきほどの美しい娘、アオヒメと呼ばれた少女がいた三階の障子を見つめた。今はもう障子越しに中の灯りが見えるだけだ。


「アオヒメ、綺麗な子だったな」

「だよねー。でもあそこの娘はみんな澄ました顔をしているから、ボクの好みじゃないなあ」

「うわっ」


 トウカが思わず肩を跳ねさせると、いつかと同じように縁の下から菫色をした長髪の男が這い出てくる。トウカは思い切り眉を寄せた。

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