第2話 花の呼びかけ2
「懐かしい匂いがする。でも人にしては不思議な匂い。それに、綺麗な瞳ね」
「綺麗――?」
「ええ、とても」
トウカは胸をおさえて、祖母がくれたお守りの存在を着物越しに感じた。優しい瞳でトウカを見ている少女に向かって、口を開く。
「――その鎖、なに?」
「これ?」
少女は枷から垂れる鎖を持ち上げた。冷たい色をした鎖が無機質な音を立てるが、愛おしそうに、悲しそうに鎖を撫でている。
「これはね――、私を守って、とどめて、縛るもの」
トウカにはよく分からなかった。それでも少女は優しく微笑む。
「私はね、ヒサゴというの。あなたのお名前は?」
「トウカよ」
鎖の少女、ヒサゴは「いい名前ね」と言う。そっと格子に顔を寄せる彼女から、甘い香りがした。
「最近いつもこの道を通っているのね。なにをしているの?」
「人の世に帰りたくて、手がかりを探しているの」
自分でも不思議なくらい、素直に言葉が出た。ヒサゴはにこにこと微笑んで、「そうなの」と頷く。
「あやかしの世と人の世が繋がるのは稀だけれど、決して繋がらないわけじゃない。希望は捨てないことよ。ねえ、明日もくるの? そうしたら、声をかけてちょうだい。あなたのお話が聞きたいわ」
トウカが頷くと、「じゃあまた明日」とヒサゴが笑った。
(第三章 第2話「花の呼びかけ」 了)
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