第2話 花の呼びかけ1

 トウカはそれから鳥居階段に通うようになった。迷わないように注意しながら山の中をさまよってみるが、人の世に繋がる道なんて見つからない。それでも通い続けた。そのうち、ウツギは「もう一人で大丈夫だろう」とついてこなくなった。


 嫌いでも怖くても、毎日のように歩いていれば慣れるものだな、とトウカは夕暮れの街を歩く。最初はあんなに怖がっていたのに、一人で街を歩けるようになってしまった。

 ウツギがくれた緋色の羽織のおかげか、幸いあやかしに絡まれたことは一度もない。


 それでもうつむいて早足で歩いていると、白い花びらが落ちているのを見つけた。白くて柔らかい、ちぢれた花びら。この場所にはいつもいつも、夕暮れになると花びらが落ちている。


 牡丹色の着物をまとい床に波打つ黒髪をもった、鎖の少女がいる座敷の前。トウカは妙に彼女のことが気にかかっていた。今日もきっとろうそくを前に一人座っているのだろう。そう思いながら通り抜けようとすると――、


「あなた、大丈夫?」


 ふいに声をかけられて、トウカは弾かれたように顔を上げた。

 いつも部屋の奥で人形のように座っている少女が、格子窓のそばでトウカのことを見ていた。柔らかくて耳に心地よい声だ。


「いつも疲れたような顔をしているわ。どこか悪いの?」


 あら、と少女は黒くて大きな瞳でトウカをみて、首を傾げた。その首で武骨な枷と、そこから垂れる鎖が音を立てる。


「あなた人の子なのね」


 トウカは目を見開いた。少女は目を細めて柔らかい笑みを浮かべている。

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