第1話 鳥居階段4

 昼よりも騒がしく、あやかしの姿も多かった。やはりあやかしは夜の方が好きなのだろうかと、トウカはたじろぎながらウツギの後ろを歩く。

 そのとき――、視界に白い花びらが映った。

 白くてちぢれた花びらは地に落ちてもなお、匂いが香り立つような美しさがあった。


「どうした?」

「花が」


 トウカはその花びらが落ちているそばの座敷を見た。格子窓がついていて、薄暗い室内がのぞける。ろうそく一本のわずかな灯りを前に、少女が座っていた。トウカとあまり変わらない齢に見える少女は、牡丹色の鮮やかな着物をまとい、波打つ黒髪が床にまで流れている。


 しかしなによりも、少女の首に視線がいった。


「どうしてあの子――、鎖をしているの?」


 少女の細い首には武骨な金属の枷がかけられていて、鎖がつながっている。

 彼女は黒々とした丸い目でろうそくの灯りを見つめていた。


「さあ。彼女はいつもああして座っている。あやかしなんて不思議なやつが多いから、いちいち気にしないことだ」

「でもあの鎖――」


 トウカは言いかけて、口をつぐんだ。ウツギは不思議そうにしながらも、格子窓から視線をそらした。


「行くぞ」

「うん」


 これ以上あやかしの街にいるのも嫌だった。静かなウツギの家に帰りたい、とトウカは黙って歩を進めた。


(第三章 第1話「鳥居階段」 了)

(雑多帖 小噺「山菜って――」公開中)

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