第1話 鳥居階段2
ウツギの家から出るのははじめてだ。家は街から外れたところに建っているから周辺は静かなのだが、街に近づくにつれて喧騒が聞こえてくる。
一つ目のあやかし、毛むくじゃらのあやかし、手足の長いあやかし――。人の世ではそうそう見ない姿をしたものたちが街を行きかっている。
――当たり前か、あやかしの街なんだから。
トウカはウツギの後ろをぴったりとついて歩いた。
「街にいるのは理性のあるあやかしばかりだ。そう怖がらなくてもいい」
「うん」
「トウカが毎日食べている山菜。あやかしの世の力があまり及ばない場所で育ったものだって言っただろう。あれはトウカが最初にいた鳥居階段のものなんだ」
「あの長い階段?」
トウカとウツギが出会った場所だ。
「あそこが一番人の世に近いんだと思う。だから、次に道が繋がるのも、たぶんあそこだ」
そう言いながらウツギは真っ直ぐ進む。この道の先に、大きな鳥居があって、そこからずっと鳥居に覆われた階段が続いているのだ。
鳥居階段の前にくるとトウカは眉をひそめた。上ってきたときも大変だったが、下りるのも一苦労だろう。行くぞと言うウツギのあとを追う。
「ウツギはあの日、どうしてここにいたの」
「夜の散歩」
「こんな疲れる階段に?」
「悪い?」
「ううん」
そこからは会話が続かなかった。すぐそばにいるのに、ウツギとの距離が遠く感じる。黙々と足だけ動かして階段を下りきった頃、トウカはすっかり肩で息をしていた。
「多分、こっちから来たと思うんだけど――」
最初に来たときのことを思い出しながら、トウカは山の中に分け入っていく。しかし進めどもただ山の木々があるのみで、人の山里に繋がることはない。それでもがむしゃらに歩き続けた。
そうしてどれだけの時間が経ったのか、ウツギが呆れたように口を開いた。
「そろそろ帰ろう。これ以上は迷子になるだけだ」
そう言われてトウカははっとした。家を出たときは太陽が高かったのに、すっかりあたりは茜色に染まり始めていた。
「日が落ちるのも早くなってきたな。今日は諦めろ」
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