第24話 彼女と二人の時間

 私はベッドに飛び込んだ。枕に顔をうずくめる。


 ひかるは私のことが好き……ひかるは私のことが好き……


 頭のなかで復唱してみても、とても現実には思えない。


 ひかるは私のことが好き……

 そう考えるだけで自然と顔がにやけてしまう。これは本当に現実? たちの悪い夢だったりしない?


 もう三時間も前のことなのに、帰り道でのことが未ださっきのことのように鮮明に頭のなかに残っていた。


『いいよ、ひかる…………今すぐ私のことを抱き締めても……』


 ああぁぁぁぁーーーっ!!


 顔を枕に押し付けて足をバタつかせる。


 私は何て大胆なことを言ってしまったんだろう……


 強く抱擁された時のひかるの肌の温もりが、しっかり感覚に残っている。


『心春……大好きだ』


 ひかるの言葉が耳にまとわりついて、離れない。


 ああ……まだドキドキしてる……

 心臓の鼓動はうるさくて、鳴り止む様子がない。


 明日から一体どんな顔して会えばいいの?


 プルルル、プルルル。

 携帯の液晶には「ひかる」の文字が現れる。


「えっ!?」


 ど、どうしよう、どうしよう……


 名前が出ただけなのに、心臓の鼓動がさらに早まって、体が熱くなってくる。


 何て言えばいいの? どんな顔して出ればいいの?


 なにも分からないよ……


 私は渋々携帯電話を手に取った。


「……もしもし?」

『心春?』

「……う、うん」

『いつもみたいに電話来ないから、俺からしてみた……』


 ひかるは何だか落ち着いていた。


「ごめん」

『顔出してみてよ? 今日はすごく月が綺麗だよ? 』

「なっ!? いつの日かの仕返しのつもり!?」

『さあ、どっちでしょう?』


 落ち着いていたかと思えば、からかってきて、もうよく分かんない。なんか私だけすごく意識してるのが悔しい……


『それじゃあ、待ってるよ……』


 電話は切れて、突然に静寂が甦った部屋のなかでは、私の心臓の音だけが高くなり響いていた。


 携帯電話を置いた私は、閉じきったカーテンを開けて、窓を開ける。ひゅーと十二月の寒風が部屋に流れ込んできた。

 窓の向こう側には既に窓を開けてこちらを見ていたひかるの姿があった。

 私が姿を現すと微笑んで手を振ってきた。


「よっ……」

「こ、こんばんわ」

「何でいつもみたいに顔出してくれないんだよ?」


 ひかるは少し責めるような目で私を見てきた。


 そんなの仕方ないじゃん! ひかるの顔見るのが恥ずかしいんだもん……


「むしろ何でそんな平気なわけ!?」


 ひかるの目をまっすぐ見ると、ひかるは目をそらして、手で顔の下半分を隠した。


「……平気なわけない……平気なわけないだろ……俺だって恥ずかしいに決まってる……」


 ひかるが余裕のない顔でそう言うので、私まで恥ずかしくなってしまった。

 意識してたのは私だけじゃなかった……


「でも、心春と気まずくなるのは嫌なんだ。今までみたいに仲良くしたいから……」

「そんなこと言ったって、どうすれば良いのか分からないんだもん……ひかるの彼女になったけど、恋人になったらどういう風に話したら良いんだろうって、どういう風に顔を合わせれば良いんだろうって、全然分からないんだもん!!」


 ひかるは少し驚いていたが、優しい笑みを向けて言った。


「いいんじゃないかな? 俺たちのペースで……ゆっくりでも……

 もちろん俺だって今まで以上に仲良くもしたいし、もっと恋人みたいなことをしたいよ?

 でも変に意識しすぎて、心春と離ればなれになって話せなくなるのは、やっぱり嫌だ。心春と話しているだけでも俺は十分幸せなんだ……」


 ひかるは窓の外から手を伸ばした。私もそれに応えるように手を伸ばす。


 二人の手は絡み合うように優しく触れ合った。


 ひかるは優しく私に微笑みかけてくれた。


「……って、既に抱き締めてしまった後に、ゆっくりのペースで進んでいこうって言うのもおかしな話ですけども……」


 苦笑いするひかるを見て、私は思わずクスッと笑みを溢した。


 かとおもえばひかるは真剣な顔で向き直って言った。


「それから、そういうことは一人で抱え込まないでちゃんと話してくれ。もう恋人なんだから、心春の喜びも悩みも、共有してほしい。もちろん全部とは言わないけど、もう一人で悩むのはやめろ……な?」

「うん」

「たくさん甘えてくれていいからさ」


 ひかるの言葉が嬉しくて、自然と頬が緩んでくる。


「うん、たくさん甘える」


 私は溢れた笑顔で、大きく頷いた。ひかるの顔に少しだけ赤みが差した。


「なんか改めて言うのもおかしいけど、ちゃんと言葉にしていなかったから……それに今言うべきだと思った……」


 ひかるはすぅーと一息を置いた。


「俺と付き合ってください」

「うんっ! もちろんだよ!」


 私はひかるの手をギュッと握り締めた。


 こんなにも温かい君の手を、私はもう離さない。















 これにて本作品は一旦一区切りになります。

 皆さまの応援のお陰で、星の数は約500、PVは約75000PVになりました。今まで応援してくださった皆さん、本当にありがとうございます。


 第二章では、光と心春の恋人になってからのその後の関係や、颯心と七瀬の関係などを書いていきたいと思っています。

 また今まで書いたところを修正&加筆をしようと考えています。ただ話の内容を変更する予定はありません。もし、内容が大きく変更する場合はしっかりご報告したいと思います。


 続きをいつ頃投稿するのか、予定はまだ決まっていませんが、早いうちに投稿を再開したいと思っています。


 とりあえず今は頑張って第二章を書き溜めしたいと思います。


 それでは第二章でまたお会いしましょう。

 ありがとうございました。

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