第3章 対立
第68話 準備完了
ゼネヒットから皆の元に戻った俺は、モノポリーとの間に交わした約束やゲイリーのことを説明した。
ゲイリーに関しては、当然のごとく皆から警戒されていたようなので、それとなく自己紹介を促してみたが、華麗にスルーされてしまった。
まぁ、彼自身も、俺達と仲良くするつもりは毛頭ないようなので、致し方ないのだが、せめて作戦に支障が出ない程度には、話してほしい。
とはいえ、俺から強く言うことができないまま、すでに8日が経とうとしている。
その間、俺達は例のごとく、魔法についての特訓を重ねていた。
おかげで、俺やヴァンデンス以外の皆も、次第に魔法の扱いに慣れてきたところだ。
そうして、準備を整えた俺たちは、具体的な救出作戦を話し合った。
アルマの救出作戦に向かうのは主に四人。
潜入班が、ゲイリーとヴァンデンス。
この二人はどちらも光魔法を使うことができるので、幻覚や透明化などの魔法を駆使して、ハウンズの拠点に入り込むのだ。
次に、攪乱班が、俺とドワイト。
ゼネヒットの街で様々な騒ぎを起こしながら、ゲイリーやヴァンデンスの潜入をカモフラージュするのが目的。
もちろん、カモフラージュをしている最中に俺達がハウンズに捕まったら、元も子もないため、逃げ足の速い二人が選任されている。
特にドワイトは、ヴァンデンスに教わった風魔法を、日頃の見張りや狩りに活用していたこともあり、かなりの腕前に上達している。
逃げに徹するだけならば、よほどのことがない限り、捕まることはないだろう。
変化があったのはそれだけではない。
魔法を使える人数が増えたということは、それだけ、できることが増えるということを表している。
特に、ザック達の製作班やメリッサ達の整備班の能力値は格段に上がったといえるだろう。
風魔法の上位互換と言われる土魔法をザックが習得したおかげで、武器や刃物の品質が格段に向上した。
さらに、整備班の皆が熱魔法を習得したことで、俺を含めた数人で洞穴の周囲を囲っていた土壁を焼き固めることに成功した。
固める前に形を整え、巨大な木材などで補強をしてあげたため、それなりの強度は確保できたと思う。
これで守りも固めることができた。できるだけのことはやった。
あとは、作戦を決行するだけだ。
そんなことを考えながら、西側の壁の上を歩いていた俺は、はるか西を見つめて黄昏ているマーニャを見つけた。
頭の上で大きなあくびをしているハリネズミのデセオが、俺に向けて小さく手を振ってくる。
そんなデセオの仕草で俺に気が付いたのか、マーニャはチラッとこちらを見て、無言のまま西に視線を戻す。
二人の間に流れる沈黙に耐え切れなくなった俺は、頭上を飛ぶシエルと顔を見合わせると、マーニャに話しかけることにした。
「こんなところで何してんの?」
「……なんでも良いじゃん」
ぶっきらぼうに答えるマーニャ。その言い方には、どこか棘が含まれているように、俺は感じた。
「え? 何か怒ってる?」
「ちょ、あんたねぇ……馬鹿なの? 普通そんなこと聞かないでしょ」
頭上から飛んでくるツッコミを無視した俺は、マーニャの隣に立つと、同じように西を眺め始めた。
いつもと何ら変わりのない、普通の森が広がっている。
その森に何かあるのだろうか。
俺がそんなことを考えた時、唐突にマーニャが口を開いた。
「私ね……ここから見る景色が好きなんだ」
「へ? この森の景色が? まぁ、悪い光景じゃないかもな。少なくとも、ゼネヒットよりは」
「……うん。それもあるけど、単純に、こんなにゆっくりと景色を眺めていられるのが、信じられないから」
「……あぁ」
マーニャの言葉を聞いた俺は、そこでようやく思い至った。
彼女にとって、外の景色をのんびりと眺めるのは、当たり前ではないのだ。
そんな自由を与えられたことが、ほとんどないのだから。
あまり詳しく聞いたことはないが、俺が奴隷になる前から、奴隷として扱われていた彼女に、そんな自由な時間があったとは思えない。
だとするなら、今のこの状況を、彼女はどう捉えているのだろう。
仮初めの自由? 奇跡的な自由? いつか失う自由? 永遠に浸っていたい自由?
そしてそれは、ここにいるみんなにとっても、同じようなものなのかもしれない。
「明日……なんだよね? アルマさんを助けに行くの」
「うん」
「……絶対に、助け出してね?」
「分かってる」
「……怪我、しないでね?」
「……分かってる」
マーニャの問いかけにこたえるたびに、俺は自分の言葉が酷く軽いもののように感じてしまった。
助け出すことも、怪我をしないことも、何一つ保障なんてできない。
できることといえば、できうる限りの準備を整えて、作戦を遂行することだけ。
かといって、時間をかけすぎてしまっては、望ましい結果は生まないだろう。
「私たち、これからどうなるのかな……?」
黙り込んでしまった俺の様子を見ていたマーニャは、ふと思い出したように呟いた。
どこか元気のない彼女の姿を見て、何とか元気づける言葉をかけようと、頭を回転させた俺だったが、何も言葉を思いつかない。
そんな俺を見かねたのか、シエルが優しく告げたのだった。
「大丈夫よ。きっと全てうまくいくから」
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