第59話 囚われの不死鳥
壁の中に侵入した刺客達とザック達が、交戦を始めた。
その様子を視界の端で確認しながらも、俺は眼前の女を睨みつける。
楽して欲しいものを手に入れたい。
女の言葉を、今の状況から推察すると、ハウンズの襲撃に乗じてアルマを奪いに来たと言う事だろうか。
だとするなら、この女も下の刺客達も、洞穴に近づけるわけにはいかない。
「シエル、ちゃんと掴まってろよ!」
小さく呟いた俺は、躊躇することなく魔法を解除した。
そして、地面に向けて伸びるジップラインを発動させる。
頭から急降下するような体勢で、応戦しているザック達の元に向かう俺は、落ちながらも、背後の気配に意識を向けていた。
俺の後を追うように、女も急降下をしている。
チラッと背後を確認した俺は、もう少しで地面と衝突するすれすれを狙って、軌道修正を掛けた。
全身で強烈なGを受けるが、何とか耐え忍ぶ。
そうして地面と平行に少しだけ飛んだ俺は、ゆっくりと魔法を解除した。
ゴロゴロと前転を繰り返して何とか着地を決める。
転がった衝撃で全身に擦り傷が出来てしまっているが、それどころではない。
俺はすぐさま四つん這いの状態から立ち上がると、戦っているザックの元へと駆け出した。
「アイツ、何がしたいのかしら?」
肩にしがみついていたシエルが、宙空を見上げながら呟く。
彼女の言わんとしていることは、俺にも理解できた。
てっきり、洞穴に向かう途中で横槍を入れて来るかと思っていたのだが、今のところ、そのような素振りを見せないのだ。
相変わらず不気味な微笑みを浮かべている女を一瞥した俺は、吐き捨てるように言った。
「今はほっとけ! とにかくまずは、皆を守るのが先だ!」
弓矢や槍と言った武器で距離を取りながら戦っているザック達。
しかし、彼らの攻撃は刺客達の魔法の前では、ほぼ無力だった。
このままでは、前回の二の舞になってしまう。
あっという間に洞穴の入口まで詰められてしまっているザック達を助けるために、俺は更に加速した。
当然、刺客達も俺や女の動きに気づいており、既に迎え撃つ構えを見せている。
「先手必勝だぁ!」
両手を前に突き出した俺は、そう叫びながら魔法を繰り出した。
指先から伸びたラインは、まっすぐ地面の中に潜って行ったかと思うと、刺客達の足元から伸び上がってくる。
その様子を思い描いた俺は、間髪入れずにこぶしを握り込んで、魔法を発動させた。
途端、刺客達の足元から、鋭い土砂の槍が勢いよくせり上がる。
残念ながら、それで刺客達を行動不能にすることは出来なかったが、少しだけ、洞穴から遠ざけることは出来た。
「一筋縄じゃいかないな……」
発動していたジップラインを解除し、すぐさま次のラインを思い描きながら、俺は呟く。
きっと、前回襲撃してきた鳥の刺客と同じように、俺のジップラインを認知できる奴がいるのだろう。
だとするなら、魔法に頼りきりになるのは危険かもしれない。
何か対処方法は無いものだろうか。
改めて洞穴に近づこうとする刺客達に、牽制のため、土砂の槍で攻撃を放った俺は、足を止めてザックの隣に立った。
「ウィーニッシュさん! 助かりました! ありがとうございます!」
「まだ助かってないから! それよりも、あの女にも気を付けろよ! 今は大人しいけど、敵だからな!」
俺は宙に浮かんでいる女を指差すと、ザックにそう告げる。
ザック以外の男たちも、俺の言葉を聞いて理解したのか、手にしていた武器を握り直しながら固唾を飲んでいる。
と、俺達が少し目を離していた隙に、刺客の一人がゆっくりと歩み出して来ていた。
咄嗟に身構えた俺達に向けて、その男が面倒くさそうに語り掛けて来る。
「おい、ウィーニッシュとか言ったっけか? なぁ、大人しく降参しろよ。お前らが俺たちハウンズに敵う訳ないだろ? 規模が違うんだよ規模が。こっちは俺たち以外にも大量の兵隊が居るんだぜ? 今日、凌げたとしても、また明日、同じように襲撃される。それが、毎日続く。そうなれば、いくらお前だって、身体が持たねぇだろ? 今降参するのが、一番楽だ。違うか?」
「そんな話が通じると思ってるのか? 奴隷として生きるのは、もうコリゴリだ。ましてや、あのクソ野郎の商品として扱われるのは、もっと嫌だね」
「まぁ落ち着け、こんなことしておいてなんだが、俺達はお前たちと取り引きすることを許されたんだ。こういうのはどうだ? その奥にいる鳥人のバディを引き渡せ。そうすれば、お前たちのことは見逃してやろう。どうだ? 良い提案だろ?」
「……」
刺客の言葉を聞いた俺達は口を噤んでしまった。
アルマを引き渡せば、引き上げる。
刺客の言っていることはつまり、そういう事だ。
もしそれが本当なのなら、それほど悪い条件では無いように思える。但し、条件だけを見ればの話だが。
「何を企んでるんだ? なぜそこまで、アルマにこだわる?」
「アルマ? なるほど、お前らはそう呼んでいるのか。それは人間の方の名前だ。あのバディの名前はヴィヴィ。こだわる理由は、言うまでも無いだろ?」
諭すように、そう言葉を結んだ男は、ゆっくりと頷いて見せた。
やはり、アルマの……ヴィヴィのフェニックスの力が狙いということだろう。
だとするなら、ハウンズにヴィヴィが捕まったとしても、殺されることはないと言う事だろうか?
俺がそんなことを考えて、口を開きかけたその時。
今まで静観を決め込んでいた女が大声を上げて笑い始める。
「ぶはははははははっ! アルマとヴィヴィ! なるほどねぇ! それでテメェらは、必死こいてこいつらから、たかが鳥を奪い返そうとしてたわけだ。ウチのボスが、横取りして来いって言うのも納得だぁ……知ってるかウィーニッシュ! アルマとヴィヴィの噂をよ!」
「なっ!? 黙れ!」
声を張り上げる女の言葉を聞いた刺客は、焦りと共に声を張り上げた。
しかし、女がその制止に従うわけもなく、淡々と言葉を並べて行く。
俺はその言葉を聞き、息を呑むことしか出来ないのだった。
「囚われの不死鳥、アルマとヴィヴィ。生まれながらにハウンズにとらわれていたフェニックス。その血を飲めば、どんな傷もたちまち回復してしまう。……ハウンズの主力製品だったっけか? さてさて、こいつらはどうやって血を集めてたんだろうなぁ」
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