第134話 株はフェア
ホントに株が好きなんだな。
熱意のこもった声は零央の内部にまで届いて熱を与えた。両親と株の関わりを尋ねたのは自然な成り行きだった。
「親御さんも株をおやりになっていたんですか?」
小夜は首を横に振った。
「じっちゃんの子どもはお父さんの方だったんだけどね、教えなかったの。お母さんに対しても、やっぱりおんなじ」
「それはまた、どうして?」
「どっちも興味を持たなかったんだって」
「だとしても、ご自分のお子さんだったんでしょう? こう、引き継ぐとか、何かを伝えるとか、そういう思いはりょうげんさんにはなかったんですか?」
「ないね。じっちゃんの考え方の基本はさ、自由だから。だから、自分の子どもであっても何をやるかは当の本人が決めればいいって思ってたんだよね、きっと。それにさ、株はやれば儲かるってもんでもなくて、損だってするわけじゃん? だからさ、株をやるかどうかなんてのはその人間が決めればいいんであって、やらせるようなもんじゃないんだよ。たとえ、自分の子どもであっても一緒」
「小夜さんは違うんですか?」
「あたしは興味あったもん。だから、じっちゃんは教えてくれた」
明るく小夜は言った。
「つっても、意味は分かってなかったんだけどね。この前も話したよね? あたしが勝手にまとわりついてたんだよ。でさ、じっちゃんが言うには、あんまり楽しそうだから、つい『やってみるか?』って訊いちゃったんだって。んでもって、あたしも『うん』って言ったらしいの。ちっちゃかったから、それも覚えてなくて、後で教えてくれるようになってから知ったの」
ほほえましく零央は思った。零央の相づちに小夜が声を出して頷いた。
「だからね、あたしはいいの。全くもって問題無し。ま、今零央くんに言われて思うに、自分が作り上げてきた手法を誰かに伝えたかったって気持ちもじっちゃんにはあったのかもね」
零央の肯定の言葉に、小夜がもう一度頷いた。
「でも、教わっといて良かった。ホントに面白いもん」
「りょうげんさんもそんな感じだったんでしょうか?」
「何が?」
「株をお好きなところが、です」
「どっかなあ? じっちゃんはあたしみたいにはしゃいじゃいなかったよ?」
「でも、入れ込んではいらした」
「そこはそうだね。でなきゃ、やんないよ。リスクがあるんだからさ」
「ですが、お金が絡む物って何でもリスクがありますよね? 多いか少ないかとか、種類が違うだけで」
「まあね。今じゃ、預金が消えるなんてことも無いわけじゃないしね。不動産だって価格の上下はあるしさ。それ自体に利用価値があるところが株とは違うかな」
「なのに、株の何をりょうげんさんはそんなに気に入っていらしたんでしょう?」
「フェアだからだよ」
「フェア?」
唐突で、関連の無さそうな単語に零央は反応した。小夜が頷いた。
「株はフェアだよ。投資家が対するのは人間じゃなくて、市場だから。判定するのも人間じゃない。売り買いを指示して最終的に出た結果で成否が決まるんだ。曖昧さも無ければ、インチキも入り込む隙も無い。どう? フェアだろ?」
「―」
説明を聞き、納得すると同時に厳しさも感じた零央は無言で頷いた。
「…自分の取った手一つで決まるんですね。気楽な反面、厳しくもある」
「だね。他人のせいにできないもん。それに、待ったやリセットも利かないしね」
「とてもシビアで、現実的ですね」
「ま、お金が関わることはみんなそうさ」
「でも、以前に、お金があれば大抵のことは何とかなる、といったようなお話をされたことがありますよね?」
零央が言うと、小夜は片眉を上げて奇妙そうな顔つきをした。
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