第58話 初デート

     

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 次の日曜、零央は千葉市の中心にある私鉄の駅の前にいた。

 立っている場所は東口だった。東口のバスターミナルには緑地帯に人型をした銀色の像があり、それを目印に小夜と待ち合わせをしていた。中心部にはもっと大きく交通の要所となった駅もあるものの、周辺に猥雑さを残した古い町並みが残っている。そのため、零央は好んでこちらの駅周辺を利用していた。約束の時刻は十時で、今は十分前だ。


 …来るのは間違いないけど、もしかして小夜さん、制服で来るのかな?


 画面で時刻を確認した零央は折り畳み式の携帯電話を閉じた。零央は肌に直接身につける品物は好きではなかった。夏ならその嗜好は特に顕著で、腕時計も使わない。今日は快晴で日差しも強かった。


 いや、さすがに今日は制服ということは…。でも、小夜さんのことだから、それもあるかも…。


 考えても答えも出そうもない事柄を零央は気にしていた。ちなみに零央について言えばネクタイ姿だった。

 淡く落ち着きのあるグリーンのボトムに白い半袖のシャツを着ていた。ネクタイもボトムに合わせてグリーン系統で揃えている。色味はボトムの生地よりも深く、艶もあった。大きな幾何学的な柄の品で、遊びの入ったオフ向きのデザインだった。ベルトと革靴はダークブラウンだ。


 待ち合わせの理由は投資のための材料探しであり、実際に零央もそのつもりだった。しかし、より大きな割合を占めている目的は小夜と二人きりで行動することだった。デートのつもりでいた。挫折の泥沼から助け出してもらったお礼もしたかった。そうした考えが普段はカジュアルな服装を好む零央の姿を引き締めていた。

 零央は前回会った時に感じた心の動きを今日までの間に反芻し、小夜を異性として見ている自分に気づいていた。好意を持っているのは間違いなかった。小夜の側が零央をどう思うかはこれからの話だ。今現在零央につき合っている女性はいないので、その点も問題なかった。


 …最悪の状況を考えると、小夜さんは約束を果たす義務感だけということになるからゼロスタートだと思えばいいかな。


 気長に構えようと零央は思っていた。まだ試験期間は半分以上残っている。


 半分しかじゃなくて半分も、と思えって小夜さんも言ったしな。


 株に関する助言を恋愛にも当てはめ、零央は口元を緩めた。


「ごめーん。待ったあ?」


 横から声がかかった。

 振り向くと笑顔で駆けてくる小夜の姿があった。私服だった。


 小夜は足首丈の生成り色のフレアスカートを着ていた。スカートはレースアップのサンダルが音を立てる度に軽やかに形を変えた。上は黒のタンクトップの上から肩の出る淡い水色のTシャツを重ねて着ている。Tシャツは前面で英文字が列を作るデザインだ。

 目立ったのはバッグだった。肩から提げたバッグは大きく、色は深みのある赤だった。デザインが変わっており、上部の口とは別に横に真一文字になったジッパーでポケットがついていた。ジッパーの上側に白い丸が二つあり、丸はどちらも中央が黒いために目のように見える。ジッパーを口に見立ててデザインしているらしく、合わせて見るとまるで力むか、さもなければびっくりした人の顔のようだった。

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