第45話 等と不等

「だいたいさあ、『ここが底』なんて瞬間をぴったり捉えるなんてのはまず無理なんだから。だったら、一度に買っちゃダメじゃん? できるんならいいけどさあ。できないやつに限ってやりたがる」


「下がった場合も見越して、少しずつ買うわけですね?」


「資金を残しとけばフォロー可能だろ?」


 零央は頷いた。


「具体的にはどのぐらいずつ買えばいいんでしょうか?」


「千株」


 簡潔な答えに零央は難色を示した。


「それはさすがに少な過ぎでは…」


「妥当だよ。あたしはいつもそうしてるよ」


「でも、目星をつけてから日にちも経っていますし、買い集めるまでに上昇してしまったら…」


 反論すると小夜が大きな溜息をついた。


「あたしも甘いなあ、もう。分かった。株数はあんたに任せるから。その代わり、制限つけるよ。たとえ一円でもいいから、それまでに買った値段より安くなった時だけ買いを入れな。翌日の寄り付きでね」


「ナンピンをやるんですね?」


「そ。平均値を下げないと意味ないからね」


「買って、いきなり上がったらどうすればいいんでしょう?」


「そん時ゃ、喜べばいいじゃん。買いは当然ストップね。欲張るのは良くないよ」


 零央は気まずそうに視線を下ろし、頭を掻いた。


「と言っても、いきなり底打ちするってことはまずないよ。逆に天井はすぐ落ちる。『買いはゆっくり、売りは素早く』って言葉は見聞きしたことがあるだろ?」


 返事をすると小夜が続けた。


「あの言葉は、だから理に適ってるんだよ。値動きに即してるってことだね。だのに、下手なヤツは逆をやるのさ。一度に大量に買って、最悪飛びつく」


「上がったところを、ですね?」


「そう。で、まぐれで上がっても、『まだ上があるんじゃないか』って思って売り損ねる。だから、いいかい? あんたも売る時は一気に売りな。利は伸ばした方がいいから迷ってもいいけど、『ここだ』と思ったらとにかく売るの。分かった?」


 零央は頷き、さらに具体的な手法を尋ねた。


「先程、千株ずつっておっしゃいましたけど、決まった数を買っていくんですか?」


「必ずしもそうじゃないよ。等分割と不等分割ってのがあって、じっちゃんは不等分割だったな」


「不等分割というのは?」


「単純に言っちゃえば、最初に千株買ったとすると次のタイミングで二千、さらに三千って感じで買っていくの」


 少し零央は考え込んだ。


「…価格が安くなったところほどたくさん買うわけですね。反転すれば利益は大きい」


「そうなんだけどね。あたしはどうしてかうまくいかなくて、いまだに等分割」


「じゃあ、ぼくもそれでやります」


「無理に合わせなくてもいいんだよ?」


「いえ。やります」


「そ。まあ、好きにすればいいよ」


 小夜が苦笑し、当面のやり方は決まった。

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