第30話 株と人生は同じ

「何にしても、あたしに依頼してくれたのがあんたで良かったよ」


「え?」


 零央は少しく胸の鼓動の変化を覚えた。


「やっぱ、応援するならヘコんでるやつだよな」


 零央の心持ちは緩やかな下降線を辿った。


 …そういう意味か。


 違う意味合いで受け取ったことが気恥ずかしかった。気恥ずかしさの打消しも兼ねて反論してみた。


「自分で言うのも何ですけど、ダメなものを応援してもしょうがないんじゃないですか?」


 面白そうな表情を小夜がする。


「今ダメだからいいんだよ。今ダメだから、将来良くなるのさ」


「株みたいですね」


「みたいじゃなくて同じだよ。いいかい? 株も人生も諦めない限りいくらでもやり直しが利くんだよ」


 小夜の言葉は零央の胸に深く刺さった。言葉も無く視線を注いでいると小夜が言った。


「株も人生も、下がっているからこれから上がるのさ。だったら買うしかねえだろ?」


 苦笑混じりに零央は微笑った。


「ヘコんでいる、つまり値の下がったぼくを買ってくださったというわけですね?」


「そういうこと。上がるのが楽しみだよ」


「好意的に受け取ってもいいですか?」


「もちろんさ」


 二人の足はいつの間にか止まっていた。零央の表情から苦笑の色は消えていた。

「いいかい? ヘコんだあんたをあたしは買ったけど、まず、あんた自身があんたを買わなきゃいけないよ。人が株と違うのは、自分から動かないと勝手には上がらないところだから」


「はい」


 零央の明快な返事とともに二人は再び歩き出した。


「とかなんとか言いながら、ホントは株なんて人に教えるもんじゃないんだけどね」


「どうしてですか?」


「だって、そうじゃないか。株なんて単なる金儲けだろ? 別に人のためにやるわけじゃないじゃないか。自分のために自分の金を増やしたいだけなんだから。じっちゃんみたいに家族を養うのだって、自分の家族なんだから結局は自分のためさ。だったら、勝手に学んで勝手にやればいいんだ。それに、他人の面倒なんか見る暇があったら自分のことをやらないと。どんな投資家だって絶対なんてないんだからさ」


 零央は言葉を無くして小夜の横顔に目を向けた。

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