第27話 『しか』と『も』
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「それってどういう…?」
「どうもこうもないよ。信用取引の怖さは分かっただろ? だったら、やめるんだよ。二度と使えないように口座を閉じるの」
「今、ですか?」
「いいと思ったことはすぐやるんだよっ!」
「…はい」
怒鳴られた零央は身をすくめた。
「それとも何か!? 取引に使ってるパソコンはあんたの部屋にはないっての!?」
「いえ。ぼくの部屋です。でも…」
「何だよ?」
不機嫌そうな小夜に零央は弱々しく反論した。
「今はもう玉は建ててないんですから、口座まで閉じる必要はないんじゃないでしょうか?」
言い終わるのと同時に小夜が目を剥いた。再び怒声が響いた。
「あんだけ失敗しといて、まだ未練があんのかっ!? やらねえんだったら口座もいらねえだろうがっ!! きっぱりやめるんだよっ! やめる時にはっ!」
「―」
小夜の息が荒い。零央は言葉もなかった。小夜は深く息を吸って吐き出した後、言葉を和らげた。
「あのな。物事を改める時にはすぐやるんだよ。しくじったと思ったら切る。これが肝心。損切りと同じさ。後に残しちゃいけない」
「…すみませんでした」
静かに零央が立ち上がると小夜が謝罪の言葉を口にした。
「…こっちも声を荒げて悪かったね」
「いえ」
目を伏せた零央に小夜が諭すように言った。
「いいかい? 失敗した時は失敗して良かったって思うんだよ」
「失敗して良かった…、ですか?」
目を上げた零央に小夜が頷いてみせた。
「あんたの場合だと、これで信用と縁が切れるじゃないか。これだけ手痛い目に遭えば、もう二度とやらないだろ?」
今度は零央が頷き、小夜が笑った。
「ラッキーじゃん。物事ってのはそう考えるんだよ」
困ったように零央は笑い返した。
「…でも」
「何だよ?」
「そのために、もう資金が半分しか残っていないんです」
「違うだろ?」
「?」
「半分『しか』じゃなくて、半分『も』残ってるんだよ」
小夜の顔は笑ったままで強がっているようには見えなかった。
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