第25話 自滅
「あたしに言わせればさ―じっちゃんからの受け売りだけど―投資に失敗する人間ってのは、みんな自滅してるんだよ」
「みんな、ですか?」
「そ。一つの例外もないね。投資の間違いは全て自分に起因するのさ」
「お話の途中で出てきた海外の異変や天災による下落はどうです? 自分のせいじゃありませんよね?」
「それは織り込んでないのが悪い」
「あらかじめ予測しておかないといけない、ということですか?」
「ちょっと違う。他国の政治情勢ぐらいならある程度予測もできるけどさ、それさえ『こういうこともあるかな』ぐらいだし、天災なんか無理だよ」
「じゃあ、どうするんです?」
「予測じゃなくて想定だね」
「? 分かりづらいんですが…」
「つまりさ、理由は何でも良しとして下落を、特に突発的な下落を意識して、そうなっても構わないような投資の仕方をしておくのさ」
「出来事の内容や時期までを把握するわけではない…」
小夜が小さく笑みを漏らした。
「そんなことできやしないよ。未来は常に不確定。完全な予測なんて不可能さ」
「だから、備えよ、と」
小夜が頷きで応えた。
「これもじっちゃんが言ってたよ。マイナスが起こってから対処するのも賢さの現われだけど、本当に賢い人間ってのはマイナスが起こらないように行動するもんだ、って」
「健康に絡めて言えば、治療ではなく予防ですね」
「うまい! いいたとえするじゃん!」
「父親が健康管理に気を遣っているので。たまに言って聞かされます」
「そこはでも同感だな。じっちゃんも気をつけてたよ」
「体は資本ですからね」
「そうだね。その辺、知り合いだけあって似てるかも」
二人は笑い合った。
「だからさ、株は確かにリスクを伴うもんだけど、だからこそ用意周到でないといけないんだよ」
「ぼくは、あまりにも無用心でしたね」
小さく息を漏らした小夜がソファーの背に体を預けた。
「まったく。株でどうやったら損できるのか教えてほしいよ。って、リスクを取り過ぎたり、やり方間違えればいいんだけどさ」
「株で損する方が難しいんですか?」
「そりゃそうだろ? 繰り返しになるけど、配当だってあるじゃん。税金は源泉徴収されちゃうけど、それ以外は丸儲けじゃないか。後は、普通の株主がやることなんていったらハガキかネットで議決権を行使するぐらいだろ? 楽なもんだよ」
「そう言われれば、そうなんですが…」
ソファーから背を離し、小夜が身を乗り出した。
「たとえば、株を商売とするじゃん?」
「商売ですか? 株っていう商品を売買する?」
「そうそう。で、商売する上で大きなコストって言えば?」
「在庫と人件費ですね」
零央は即答した。小夜が満足そうに笑った。
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